※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=池田安佑美、撮影=矢吹建夫) 前年王者を破って優勝した保坂
電光石火の攻撃スタイルが火を吹いた。決勝では過去一度も勝ったことがない砂川との対決だった。保坂は「そろそろ勝たないといけない」と自分に言い聞かせてマットへ上がると、序盤、差してから足を取って3点を先制。
その後も手を緩めずに攻撃し、わずか2分12秒、7-0と無失点で前王者を倒した。「今日の試合、全試合、テクニカルフォールで勝ちました!」と誇らしげに胸を張った(初日はテクニカルフォール勝ち1試合、フォール勝ち1試合)。
■大学2年まで、結果が出ずに腐りかけた時も
2010年の高校三冠王者(全国高校選抜大会、インターハイ、国体)として、鳴り物入りで早大に進学し、2年生の時(2012年)でJOC杯ジュニア選手権を制した。周囲から見れば順調に成長しているように見えるが、保坂自身は、やきもきしていた。「早大の同期は、前川勝利、桑原諒と全部で3人。その中で、1年の時にJOC杯で優勝できなかったのは僕だけでした。前川なんて、大学1年で全日本選抜選手権で優勝しました。同期から置いていかれていると、すごく焦った時期がありました」。
焦って優勝を意識し、試合では空回りに終わることが多かった。2年生でJOC杯を制しても、全体的にみると自分自身では物足りないと感じる成績で、「頑張ろうという気持ちと体が比例しなくて、レスリングが嫌になる時期もあった」と振り返る。 決勝を含め、6試合すべてで第1ピリオドで試合を決めた保坂
連絡を受けた時、保坂は大きなショックを受けたが、同時に「弟の分までインカレを頑張るんだ」と決意した。この日は両親と弟の3人が秋田から応援にかけつけた。家族総出で応援に来ることは珍しいという。「兄として、少しでもカッコいいところを見せたかった。今回は負けられない」と気合が入った。
■追い風となった新ルール、1度のTフォールで終了というご褒美
気合十分の保坂に追い風が吹いたのは新ルールだ。もともと強気な性格。高校時代は「暴れ馬」と呼ばれ、序盤から攻撃していくスタイルの選手だった。旧ルールでは第1ピリオドで6-0とテクニカルフォールで終わらせても、ゼロから第2ピリオドを始めなければいけなかった。そのため、「中途半端な攻めしかできなかった」(保坂)。
改正された新ルールは、テクニカルフォールを決めたら、その時点で試合終了。加えて、保坂が得意とするタックルからのテークダウンが2点と倍増。第1ピリオドから全力でファイトすることで得点を重ね、それが勝利につながった。
晴れて学生チャンピオンの座についた保坂。この階級はロンドン五輪で日本が金メダルを獲った階級であり、現在の全日本チャンピオンには、早大の先輩である石田智嗣(警視庁)。「すぐには倒せる相手ではありませんが、少し近づいたと思う。今回はステップアップです」と、これから王者への階段を駆け上がる腹積もりだ。