※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=樋口郁夫、撮影=矢吹建夫) 初の学生王座を獲得した北村
■「非常に長かったです」…4年目の学生タイトルに照れ笑い
北村は「正直、ほっとしています。4年目にしてやっと(フリースタイルのタイトルを)取れたので…。長かったです。非常に長かったです」と、照れ笑いを浮かべながら話す。昨年のグレコローマンでのタイトル獲得もうれしいが、「インカレは学生最大の大会という印象を持っている。インカレのフリースタイルのタイトルを目標としていたので、本当にうれしいです」と言う。
山中(日体大)との決勝は、開始早々にテークダウンを奪われて0-2とされたが、得意のタックルで追いつき、突き放す展開。「リードされても、7点差がつかなければ逆転できる自信はありました」。焦りはまったくなかったそうで、得意のタックルを連発できたのは「自信からくるものでしょう」と自画自賛。 優勝を決め、うれし泣きの北村
ライバルであり、リベンジせねばならない嶋田大育(国士舘大)は84kg級にエントリーしていた(けがで欠場)。「嶋田にリベンジして優勝し、最高の形で4年生を終えたい、という気持ちがありました」と、その部分は残念だったが、「嶋田がいないので、自分が勝つしかないと、いい形で自分を追い込むことができた」ことも勝因だという。
観客席からは「こうへいー」というひと際大きな声がおくられていた。「試合中でも、しっかり聞こえていました」という声は、北村を女手ひとつで育てた母・佐都子さんの声。大会の度に応援に来てくれるという。ところが、昨年の全日本大学グレコローマン選手権の時は来ていなかったそうだ。準決勝や決勝で負け続けだったインカレの最後で学生タイトル奪取の試合を見せることができ、「お世話になった恩返しが、やっとできましたね」と言う。
■今後の目標は、嶋田へのリベンジと高谷越え
北村が普通の選手なら、新人戦で3度優勝し(3階級制覇)、インカレは昨年までの3大会(両スタイル)で2位4度、3位2度なら、「上出来」と思える成績だろう。だが、高校五冠王者という肩書が、周囲の視線を厳しいものにしていた。 決勝戦、タックルで攻めた北村
「もうやる気をなくしている」といった評判も立ったほどだが、北村は「本気になってレスリングをやめようと思ったことはないですよ」と、うわさを打ち消す。勝てないため投げやりになていた時期があったことは認めたが、だれにでもある気分の浮き沈みというレベルで、「根本は、レスリングって楽しいって思っています」と笑う。
昨年秋の世界学生選手権(フリースタイル)で2位となっことで、目から鱗(うろこ)が落ちた。試合に臨む気持ちに変化があり、得意のタックルで押し通すスタイルを貫くことで脱皮。全日本選手権はまだ高谷の壁を越えられなかったが、0-2ながら内容は1-1、1-1(ともにラストポイントの差=当時のルール)と大接戦を展開。全日本選手権で初めて2位となり、全日本王者を射程距離に入れるまでに成長した。
一方で、6月の全日本選抜選手権は嶋田に完敗。高谷と嶋田の2人を目標にした闘いが続いていた。嶋田のけががどの程度が分からないが、「嶋田にリベンジして卒業したい。高谷さんにも勝って、リオデジャネイロ・オリンピックに出たい」ときっぱり。その最大の決め手は「タックルです。タックルしかないので、ひたすら磨きます」-。