※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子)
オリンピック金メダリストの前で成長を見せつけた! 全日本社会人選手権の男子フリースタイル66kg級は、全日本王者の石田智嗣(警視庁= 右写真 )が決勝で野田寛人(自衛隊)を7-0のテクニカルフォールで下し、大会2連覇を決めた。
この大会には、ゲストとしてこの階級のロンドン・オリンピック金メダリストの米満達弘(自衛隊)が来場。米満の目の前で自衛隊選手相手に圧勝してみせた。
挫折から這い上がっての優勝とも言える。1ヶ月前に大きな試練があった。昨年12月に全日本王者になり「僕が次のオリンピックで金メダルを獲る」と宣言したが、今年の世界選手権代表をかけた6月の全日本選抜選手権で、決勝、プレーオフともに井上貴尋(東京・自由ヶ丘学園高教)に2連敗し、まさかの世界選手権代表落ちの屈辱を味わった。
石田は「正直、選抜で負けて気持ちが落ちていた」と本音を吐露。しかし、「66kg級として試合を全然こなせていなくて、少しでもこの階級に慣れてレベルアップするには、試合をやることが一番いいと思った。負けて何もしなかったら変わらない。次に勝つためにも、試合に出よう」と、気持ちにむちを打って広島までやってきた。
全国からの社会人レスラーの来場を歓迎してくれた福山市
そんな石田のやる気を完全回復させたのは、開会式のセレモニーだった。「広島の方たちが活気ある和太鼓を披露してくれ、われわれを歓迎してくれている姿に感動しました。それがすごくよくて、元気をもらえました」。
午前中には警視庁クラブのメンバーとして団体戦にも出場し、3試合をこなしていたが、「切り替えができた」と集中力を高めて臨んだ個人戦で、石田は次々とアタックを決めてテークダウンを奪い、グラウンド技につなげて点数を重ねていった。
石田は、2分間のうちのワンチャンスを確実にものにするスタイルだったため、新ルールで序盤から攻め続けるスタイルに適応できずに敗れた面がった。「不利な体勢で何もしないとすぐにコーションを取られました。(攻めなかったことは)非常に反省した。今回は最初から攻め続けようと思った」と、以前のスタイルから180度転換。
組みついたら相手を振り、すぐさま足を取るなど攻撃を意識した試合を展開し続けた。全試合テクニカルフォール勝ちという結果は、石田が成長した証だ。
「周りからは攻めたように見えたかもしれませんが、自分としてはまだ(完成していない)」と納得はしていなかったが、2度目となる新ルールでの試合で、飛躍的に進化した姿を見せた。
決勝で闘う石田(赤)
石田にとって新ルールが不向きだった点は、速効型ではない部分だけだった。それ以外は、むしろ石田に適応したルールだ。「インターバルが6分間で2回もあるのが嫌でした。どうせなら6分1ピリオドでやりたいくらいなんです」と、集中力を切らせないことを重要視している。試合開始直後の攻撃さえしのげば、自分のペースに持ち込む自信はある。
この夏は海外にはいかず、国内でしっかりと自分のスタイルを作りこむ予定。12月の全日本選手権では、6月の全日本選抜選手権を欠場した米満も復帰してくる可能性が高く、新旧全日本王者の対決がみられそう。
米満が金メダルを獲ったのは旧ルール下でのこと。新ルールで半年も実戦を積む予定の石田は、「マットに上がったら過去のチャンピオンとかは関係ないので、もちろん僕が勝ちます」と、12月の決戦に向けて闘志を燃やしていた。