※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫) 《決勝VTR》 / 《プレーオフVTR》
■稲葉泰弘の試合結果 プレーオフ ○[11-5]森下史崇(日体大) 決 勝 ○[Tフォール、1P1:39(7-0)]高橋侑希(山梨学院大) 準 決 勝 ○[Tフォール、2P1:04(8-0)]半田守(専大コーチ) 2 回 戦 ○[フォール、2P0:45(11-4)]西山凌代(拓大) 1 回 戦 BYE |
新婚パワーで復活V! 全日本選抜選手権の男子フリースタイル55kg級は、ロンドン・オリンピック代表を最後まで争った稲葉泰弘(警視庁)が決勝で全日本大学王者の高橋侑希(山梨学院大)を1分39秒でテクニカルフォールで下して優勝。
9月の世界選手権(ハンガリー)の代表がかかったプレーオフでは、全日本王者の森下史崇(日体大)に序盤でリードを奪われるが、「高校の後輩でもあって、負けられないと思った」とキャリアの差を見せつけて、11−5で勝利し、2010年に3位の成績を収めて以来、3年ぶり2度目の世界への切符を手にした。
2016年のリオデジャネイロ・オリンピックへ向けて、選手層も新旧交代の時期を迎えた昨年の全日本選手権で、稲葉はスタートダッシュに失敗した。試合直前の練習で負傷し、「ヘルニアで首が痛かった」と、万全の状態で闘えなかった。優勝も逃し、20代後半の稲葉としては「引退」の二文字もよぎるほどだった。
■男子の世界選手権代表で唯一のメダル経験者
そんな稲葉を支えたのが今年3月に入籍した妻の沙央里さんだ。「けがガを一緒に治して頑張ろう」と、稲葉の現役続行に対して背中を押してくれた。稲葉は「妻のためにも頑張ろうと思ってやってきました」と、もう一度立ち上がることができた。
代表決定直後にも、派手なパフォーマンスはなし。世界選手権まで取っておく?
首の状態は完治に近づいてきているが、今大会は自分からタックルの口火を切ることは、あまりできなかった。「練習では大丈夫なのですが、試合だと怖さがあった」と、若手に“うまさ”で応戦してしまった。「世界選手権では自分から攻めるようにしたい。そうしないと、目標としているところには行けないので」。
試合は反省が残る内容となってしまったが、逆に考えれば、3ヶ月後の本番に向けての課題が明確になったと言えよう。
今大会で男子は世界選手権代表が出そろった。世界選手権のメダルを獲得しているのは稲葉だけ。ロンドン・オリンピック金メダリストの米満達弘(自衛隊)や階級を上げて臨んだ同オリンピック銅メダリストの松本隆太郎(群馬ヤクルト販売)が不在のナショナルチームとなった。
日本協会の高田裕司専務理事は「現段階ではスター不在。結果を出すには厳しい状況。元世界3位の稲葉に(メダルを)期待したい」と話し、稲葉を“エース”に指名した。
稲葉も、その期待に応える準備は十分だ。「若い選手が強くなっているので、4年後(を目指す)と言わず、1年ずつやっていきたい」と、この秋の完全燃焼を誓い、世界王者への意欲を見せた。