※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=三次敏之、撮影=矢吹建夫) 《決勝VTR》 / 《プレーオフVTR》
■井上貴尋の試合結果
プレーオフ ○[4-1]石田智嗣(警視庁)
決 勝 ○[3-2]石田智嗣(警視庁)
準 決 勝 ○[フォール、1P1:01(4-0)]砂川航祐(日体大)
2 回 戦 ○[4-1]小石原拓馬(日体大助手)
1 回 戦 BYE
|
プレーオフに勝ち、世界選手権出場を決めた井上貴尋
同高ホームページのレスリング部のページを開くと、同校を目指す中学生に向けて「部員のほとんどは初心者ですが、1、2年後には関東大会や全国大会で活躍できるようになります」とのメッセージが書かれてある。時にインターハイの上位選手を輩出するチームではあるが、全国から強豪が集まるエリート集団ではないことが理解できる。
そんなチームの現在の指導者が、日本の伝統を受け継ぐ使命を帯びて世界選手権に出場する。井上は大会後のコメントでも、しきりに教員であることを強調していた。
大会に臨むにあたり、自分を鼓舞させることもあったが、払しょくしたいことがあったのも確かだ。気持ちが盛り上がったことは、初日に同高の卒業生で日体大の同期生の田野倉翔太(クリナップ)はグレコローマン55kg級で優勝を飾ってくれたこと。
しかし、同じ卒業生のフリースタイル120kg級に出場した中村圭佑(日大)は入賞を逃し、グレコローマン74kg級全日本王者だった兄の井上智裕(兵庫県協会)は初戦で敗れ、世界選手権出場を逃していた。最終日に出場する井上としては、ネガティブな情報の方が強くインプットされたとしても不思議ではなかった。
■全日本王者の兄の敗戦は、「まったく気にならなかった」
ところが井上は、兄の敗北に関しては「全く気にならなかった」と平然と言い切った。この男が、レスリングを愛しているのと同様、指導者としての責任感として、そして生徒を愛しているからこそ、生徒に背中を見てもらいたいという情熱が産み出した優勝でもあったのではないだろうか。
全日本王者の石田智嗣に2連勝!
スパルタ式はダメ、体罰はダメという風潮がスポーツ界の話題を集めているが、井上貴尋という教員は、自分が全日本選抜選手権という生徒が憧れる舞台に上がることで、生徒に闘う背中を見せたた。こんな素晴らしい教育方法もあったのかと、優勝コメントを聞きながら気づかされた。
それだけではない。優勝というお土産まで用意してみせた。素晴らしき教職者の闘いを見させてもらった。教え子の支援を背に、世界でも飛躍してくれることが望まれる。