※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
家族やコーチに祝福される奥野春菜
大けがからの復活優勝だ! 沼尻直杯全国中学生選手権女子52kg級は、吉田沙保里(ALSOK)を生んだ三重・一志ジュニア所属の奥野春菜(三重・久居西3年)が、決勝で増山汐音(群馬・千代田)を9-1のテクニカルフォールで下し、最後の全国中学生選手権で初優勝を飾った。
一志ジュニアの十八番であるタックルを武器に、前に、前にと出てつかんだ勝利だった。奥野が優勝した瞬間、セコンドについていた父であり、一志ジュニアの奥野竜司コーチは万感の思いだった。
「春菜が1年の時の大会で、3回戦で投げられてけい椎を痛めてしまい、救急車で運ばれました。リハビリで1年くらいマットを離れて…。そこから復帰して、やっと優勝できました。本当にうれしいです」。3年かけてつかんだ初優勝だった。
父(向こう側)のアドバイスを受けて闘う奥野
奥野一家と吉田一家とは、家族ぐるみの付き合いがあった。奥野コーチが一志でコーチを務めていたことで、奥野も吉田と同じく物心ついた時からレスリングに親しんできた選手。2004年アテネ・オリンピック、2008年北京オリンピックは、吉田一家とともに親子そろって現地で応援したほどだ。
親子そろってレスリング漬けの日々を送っていた奥野だったが、けがは予想以上に重たいものだった。奥野コーチは「医者に『娘はどれくらいでレスリングができるようになりますか?(治りますか)』と聞いたところ、『お父さん、(後遺症が残る可能性がある状況なのに)どういう質問ですか!』と怒られたんですよ」と当時を振り返る。
完全にマットから離れ、翌年の大会まで1年間もマットを離れることになった。奥野は「スタミナがなくなった」と話すように、昨年はこの大会、全国中学選抜大会ともに優勝に届かなかった。そんな奥野の背中を押したのがルール改正だ。「一志ジュニアにとって、タックルが1点から2点と倍になったのは大きいです。今回の優勝はルールにも後押しされました」(奥野コーチ)。
■一志ジュニアのもう一つの親子物語
万感の思いを込めて優勝を喜んだ奥野
悲願の復活優勝にも関わらず、手放しの喜びの姿を見せなかった奥野。その理由は中学チャンピオンがゴールではないからだ。
奥野が「将来は吉田選手のようになりたい」と話せば、奥野コーチも「最終的にオリンピックというところまで行きたい」ときっぱり。一志ジュニアの、“吉田親子”ならぬ“奥野親子”で、将来の金メダルを目指す。