※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)
決勝でアンクルホールドを狙う松井
初戦から準決勝までの4試合は、すべて第1ピリオドでテクニカルフォール勝ち。「ルールが変わったので、すぐに適応しようと、前に出ることを意識していました」と、試合開始から全力で攻めたてたところ、4試合中、3試合が秒殺という圧勝で勝ち進んだ。
決勝は、これまで何度も雌雄を決してきたライバル・阿部との対決。予想以上の快進撃で決勝に進んだ松井だが、気は緩めなかった。「決勝で阿部君と対戦すると思って、最後まで気を抜かなかった」と話し、決勝でも集中力を高めて臨んだ。
■開始早々に0-4とリードされた決勝
だが、開始早々に場外際で果敢に攻めたタックルを返されてしまって3失点。場外ポイントを主張した松井のセコンドはチャレンジ(ビデオチェック要求)を出すが、判定は覆らず、いきなり0-4と大きく差をつけられてしまう。
旧ルール下では、4点差は厳しい差だが、タックルが2点となった新ルール下では、追いつけない差ではない。「失点当初は、どうしようと思いましたが、試合時間は6分あるので、『しょうがない』と気持ちを切り替えました」と、すぐに冷静さを取り戻し反撃に出た。タックルからテークダウンで2点。アンクルホールドなどで次々とポイントを重ねて逆転し、11-6へ。残り数秒、スタンド状態からがぶり返しを決められてしまって11-9と追い上げられたが、積み重ねた大量得点で振り切った。
最後の全国中学生選手権を優勝で締めた松井。「11月の全国中学選抜大会で優勝すれば中学5冠となる」と、残り1大会となった中学生での全国大会への意気込みはもちろん、夏に行われる世界カデット選手権(セルビア)に向けても「優勝するつもりで頑張りたい」と抱負を語った。
伊藤監督とともに。手前は沼尻杯の副賞の自転車
松井が所属する桑名クラブの伊藤健一監督は「松井はとてもストイックな選手。本気でオリンピックを目指している」と意識の高さに脱帽している。自宅が愛知県。ふだんは1時間かけて桑名クラブに通っている。「桑名クラブは小学生がメーンで、毎日練習はありません。中学になるともう少し練習したいところですので、岐阜の中京学院大に通っているのです」。3県に渡って松井は練習を積んでいる。
松井を支えているのは、レスリング指導に熱心な父・雅哉さんだ。伊藤監督は「ほとんど父親が車で送り迎えしています。影の立役者はお父さんですね。また、出げいこ先の中京学院大の指導者と選手のみなさんには本当にお礼を言いたいです。みなさんのおかげで松井は優勝できました」と感謝の気持ちを表した。
「ディズニーランドに行くより『中京学院大で強くなるために練習したい』と言うんです」(伊藤監督)。根性があり、努力を重ねた松井が獲るべくして獲った2度目の優勝だった。