※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=池田安佑美、撮影=矢吹建夫)
山梨学院大優勝の立役者たち
今年の東日本学生リーグ戦は、山梨学院大が最終日のグループ予選最終戦で青山学院大を6-1で下し、全勝でグループ1位へ。Bグループ王者の早大との決勝も4-3で勝ち、2008年以来5年ぶりの優勝を遂げた。
決勝は、55kg級でインターハイ3連覇の実績を持ち、昨年の全日本大学選手権55kg級優勝の高橋侑希で“スタートダッシュ”に成功。60kg級の鴨居正和、66kg級の濱本豊と3連勝。その後3敗を喫したが、カザフスタンからの留学生で120kg級に出場した“新人”オレッグ・ボルチンが全日本選手権グレコローマン120kg級王者の前川勝利を第2ピリオドでフォールし、4勝目を挙げてチームの優勝を決めた。
最優秀選手賞には主将としてチームを引っ張った66kg級の濱本豊が選ばれた。濱本主将は、高校時代は国体グレコローマン55kg級3位が最高で、「インターハイは2回戦負けです」という高校無冠の選手。山梨学院大に進学し、実績のある先輩、後輩にもまれて地道に力を伸ばし、今回は高田裕司監督が「濱本のおかげで勝てた」と労をねぎらうほど主将としてチームをまとめあげた。
チームに勢いをつけた55kg級の高橋
■高橋侑希が6戦全勝でスタートダッシュに成功
4年生がしっかりと勝てば、おのずと地力のある後輩たちが結果を出せる環境になる。55kg級の高橋は4月上旬に交通事故で負傷し、世界ジュニア選手権の予選となる4月下旬のJOC杯を欠場。「最後の世界ジュニア選手権を棒に振ってしまったため、気持ちを入れ直し、このリーグ戦に向けてしっかりやろうと思った」と、JOC杯の分の気合も入れて同リーグ戦に臨んだ。初日と第2日は1試合ずつ、第3日からは全試合に出場して全勝し、チームの流れを作るキーマンとして十分に活躍した。
ハイライトは3日目の日体大戦だ。相手は高校時代からのライバルで、全日本王者の森下史崇。昨年は1勝4敗と大きく負け越している。勝ち急ぎたいところだが、「重量級も強い選手がいたので、自分がまけてもカバーしてくれると思った」と返し技などを恐れず、思い切っていけたことが功を奏した。
第1ピリオドではバックポイントやカウンター攻撃で森下から点数を奪い、第2ピリオドはクリンチを制して2-0で勝利。「前にでも出られたし、森下選手に初めてストレートで勝てた。気持ちよかったです」と大一番を振り返った。
■日本の両スタイル全日本王者を下す! オレッグ・ボルチンが鮮烈デビュー
濱本主将とボルチン
高橋の活躍も素晴らしかったが、それ以上に鮮烈だったのは、カザフスタンからの留学生ボルチンだった。チームはAグループ予選でのヤマ場となった日大戦、日体大戦、さらに決勝も4-3と接戦だったが、すべて3-3で120kg級のボルチンに勝負がまわり、フォールで下して山梨学院大に勝利をもたらした。
日大戦の120kg級は全日本選手権男子フリースタイル120kg級王者の岡倫之、早大戦の120kg級は同男子グレコローマン120kg級王者の前川勝利。日本の“ツートップ”をフォールで一蹴してしまった。来日してわずか2、3週間というボルチン。今までも多くの留学生を国際交流の一環として入部させている山梨学院大だが、過去最強の留学生になるかもしれない。
高田監督はボルチンに関し、「来日して2、3週間しか経過していないが、本当によくやってくれた。(昨年のアジア・ジュニア選手権3位の実力者であるが)まだレスリング自体が下手くそなので、これから組み手とかいろいろ教えて、強くしてカザフスタンのオリンピック代表となれるように育てたい」と話した。
優勝後にもかかわらず、直後には高田裕司監督と小幡邦彦コーチ(手前)から厳しいゲキがとんだ
■「喜ぶのは今日だけ」…小幡邦彦コーチ
もちろん、ボルチンが強いだけではリーグ戦を制することはできない。今年の山梨学院大は軽量級、中量級、重量級とバランスのとれたチームを作り上げてきた。高田監督は「日大戦、日体大戦ではポカがあった」と、すべて計算通りいかなかったようだが、96kg級までで3勝を挙げてアレッグにつなぐという作戦を、濱本主将を中心にチームがまとまっていて実行できたようだ。
超ド級の新戦力を武器に東日本学生リーグ戦を制した山梨学院大。小幡邦彦コーチは「喜んでもいいけど、それは今日だけ。次は、自分たちがチャンピオンとして他大学に狙われるんだから」ときっぱり。
おごりを持たずシーズンを駆け抜けた時、山梨学院大の年間三冠の夢は実現される―。