※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
【イスタンブール(トルコ)、文=樋口郁夫、撮影=矢吹建夫】3度目の五輪出場を目指す女子72kg級の浜口京子(ジャパンビバレッジ)が、世界選手権の2試合目にしてその道を断たれ、出場権獲得は来春の予選第2ステージ(カザフスタン)にかけることになった。
浜口の野望を打ち砕いたのは、昨年の準決勝でも敗れたオヘネワ・アクフォ(カナダ)。その時も2ピリオドでクリンチがからむという大接戦。今回も第1ピリオドは1-1のラストポイント(日本のチャレンジ失敗により、スコアは1-2へ)、第2・3ピリオドがクリンチでの結果となった。実力差は全く感じられない。しかし負けたという事実が残り、4年前と同じ試練に立たされた。
2回戦で強豪と相対した浜口
イスタンブール入りしてからのコンディションづくりも順調にでき、気力、体力ともに最高の状態でマットに上がれたという。練習の質とは、世界を5度制した高田裕司専務理事によるマンツーマンに近い練習であり、高田専務のはからいで合宿に送りこんでくれた山梨学院大の男子選手との練習だ。「とても役に立った。こんな形になって、高田専務に申し訳ない」と、あらためて“謝罪”した。
アクフォは昨年だけでなく、これまでに何度も闘っている相手。お互いに手の内は知っている。攻撃を受けない代わりに、攻撃もできない。第1ピリオドでポイントを奪い合ったあとは、お互いにどうやってもポイントが取れない。
「警戒している相手に対しての攻撃能力が高ければ勝てた試合だったけど、あそこまでしかできなかった。フェイントがきいていなかった。あともうひとつ、ポイントにつながる技ができなかった」。淡々と試合を振り返る浜口だが、「この大会にかけてきたので、今は頭が真っ白」とも。再起は、頭をクールダウンさせ、冷静になって現実を受け入れてからだという。
■「きっと大丈夫。絶対に大丈夫、というもう一人の自分がいる」
栄和人監督は「これまでは、攻撃して空回りすることが多かった。デフェンスの強い選手なので、守って相手のミスを誘う作戦がいいかと思ったが…。一貫性がなかったかもしれない。難しかった」と振り返った。
昨年12月の日本協会理事会の決定では、7位以下となって出場権が取れなかった場合には、「2012年3月末の五輪選考トライアル・アジア予選に世界選手権代表を派遣」するとなっている。これに従えば、カザフスタンでのアジア予選にも浜口が出場することになる。栄監督は「ポカさせないようにして、徹底的に攻めさせたい」と、今後の練習の指針を話した。
日本からは両親が応援に駆け付けた
「あの時は、マットに上がるのが怖い自分がいた」と浜口。世界一に返り咲けず、いろんな悩みがあったのだろう。今年の世界選手権に臨むにあたっては「自信を持ってマットに上がれた自分だった」と、試合前の心境の違いを説明した。「あの苦しみを乗り越えたのだから…」と、4年前よりひと回り大きくなっていることを自らに言い聞かせるように話した。
五輪出場権を逃し、何も手につかなかった4年前とは明らかに違う。「きっと大丈夫。絶対に大丈夫、というもう一人の自分がいる」と再起の言葉を口にし、「数日後にはマットに上がっている自分がいるかも。きっとそうなっているでしょうね」と話した。この時、ほんの少しだが笑みが浮かんだ。
アクフォに負けた後、観客席から見た72kg級は「紙一重の差で、クリンチで勝負が決まることも多い。だれもがチャンピオンになれる階級」との感触を得た。試合後だからこそ沈んでいるだけであり、気力は衰えていない。
「自分の力で代表権を取って来ます」。3月末の予選第2ステージ、アジア予選への強い決意の言葉も出てきた。