前回の「世界女子の世界的普及と戦力均衡化は実現するか」と関連するが、米国の大学スポーツの人気競技でもあるレスリングの全米大学(NCAA)選手権に、今年から女子が採用されることになった。1993年にミネソタ大モリス校が大学初の女子レスリング部を創部してから34年目での悲願達成。
米国レスリング協会のホームページは、今年の元旦に掲載した「2025年の総括と2026年の注目される出来事」のトップに、男子フリースタイルの世界での飛躍などを差し置いてNCAA選手権での女子採用を挙げた。
「これは私たちにとって最大のニュースです。レスリングというスポーツにとって、2025年1月のこの発表がどれほど画期的だったかは、言葉では言い表せません。この瞬間に向けて何十年も努力してきたすべての人々の努力が報われました」と記述。女子のNCAA採用が米国レスリング界の悲願だったことがうかがえる。
早くから女子のオリンピック採用を推し進めてきた日本が、2002年9月に女子のオリンピック採用が決まって大きく沸いたことと同じくらいの歓喜が米国レスリング界には充満している。3月6日(土)~7日(日)にアイオワ州コーラルビルで開催される初のNCAA女子選手権には、2024年パリ・オリンピックで豪快なジャーマンスープレックスを披露して衝撃的な国際デビューを飾ったケネディ・ブレーズ(アイオワ大=パリ76kg級銀)も出場予定。これまで以上に、世界の目が集まることが予想される。
米国に女子選手が誕生したのは、1980年代後半で、1989年世界選手権(スイス)には4選手が参加。1992年にはパトリシア・サンダースが50kg級で世界チャンピオンに輝き、世界の女子の普及に合わせて発展してきた。しかし、大学として取り組んだのは前述の通り1993年。
同部は予算の都合で10年後に廃部へ。その間の2017年にプレスビテリアン大などが女子をスタートさせ、普及発展を目指したが、必ずしも 順調に進んだわけではなかった。世界チャンピオンは生まれたものの、2010年代の後半になるまでNCAA入りは厳しい状況だったと言える。
しかし、米国大学スポーツ界に男女平等の実現を目指す空気が広まり、男子のみが行われていた競技で女子の参加を促進する動きができたことが幸いした。その流れに乗って2020年6月、NCAA内に「新興女子スポーツ」との位置づけで採用へ向けての動きが加速。
2021年9月には、男子の強豪大学であるアイオワ大が女子の創部を発表。2023年にはNCAA種目入りに必要な40大学を突破。NCAA女子陸上競技委員会の委員長が「女子レスリングの進歩は“並外れたもの”であり、前進を促す模範的な実践例」として高評価。2025年1月17日の朗報につながった。
2023~24年度、女子を実施していた大学は76校。昨年度は新たに17大学が加わり、競技人口は約1200人。男子では3日間6セッションでのべ10万人もの観客を集めるNCAA選手権。女子は何人の観客が集まるかが注目される。
前述のケネディ・ブレーズは「これは女子レスリング、そして女子スポーツ全般にとって非常に大きな意味があります。米国では大学スポーツが非常に盛んです。この決定は、女子レスリングがどれだけ成長しているかを示しています。私は幼い頃から NCAA のチャンピオンになることを夢見ていました。私を含め、多くの女子選手の夢をかなえることになるでしょう」と喜びを表した。
同大学で女子を指導する日系のクラリッサ・チャン・コーチ(2008年48kg級世界チャンピオン)は「女子選手は、だれもが最高の舞台で闘う機会を求め、NCAAチャンピオンの名声を勝ち取りたいと願っています。ケネディ選手には敬意を表します。彼女はシニア世代でオリンピック銀メダリストと世界選手権銅メダリストであり、ともに金メダルを目指していますが、NCAAのタイトルを手にすることも目指しています」と、目標のひとつであることを話す。
米国には、極端な話、世界チャンピオンとNCAAチャンピオンを同格に見る雰囲気もある。それほどまで人気があり、注目されているイベント。女子のNCAA入りは選手の大きなモチベーションとなり、米国の女子がさらに発展することが予想される。
なお、今シーズン、リンデンウッド大に吉川早紀(東京・WRESTLE-WIN出身)、マッキンドリー大に坂本由宇(東京・AACC~JOCエリートアカデミー出身)の日本女子選手が在籍しており、NCAA選手権のマットを目指して活動している。