昨年の世界選手権・女子では北朝鮮の躍進が大きなニュースとなったが、もうひとつ、エクアドルから初めて世界チャンピオンが誕生したことも大きな話題となった(76kg級のジェネシス・レアスコ)。2021年のモルドバ以来、27番目の世界女王誕生国。女子がオリンピック種目になってからは18番目となる。世界レスリングの発展に、大きな一歩を刻んだ。
日本は、オリンピック3大会連続で金メダル4個を獲得。それを実現した日本の努力は賞賛されることだが、オリンピック競技として考えた場合、“一強”の状態ではデメリットが多いのは確か。
同じ国の優勝が続けば、結果に対する緊張感や感動が薄れ、応援する人を除いて見る側の関心は低下する。他国の選手や連盟の競技への意欲やモチベーションが下がって一強がさらに進み、国際オリンピック委員会(IOC)がオリンピック競技に求める「競技の普及度」「世界的な競争の激しさ」から離れてしまう。
その状態が続けば、オリンピックからの除外対象となる可能性も出てくる。多くの国や選手がハイレベルで競り合う状況の中での闘いこそが、オリンピックの理想。世界レスリング連盟(UWW)では、途上国を支援することで発展をサポートし、女子の世界的発展を目指している。
昨年、至学館大(谷岡郁子学長=日本協会名誉副会長)がUWWとの間にコーチ交換プログラムや交流の協定を締結。11月にアフリカや南米を中心に15ヶ国から21選手が至学館大で合宿を実施。2016年リオデジャネイロ・オリンピック女子69kg級金メダルの土性沙羅(至学館大コーチ)、パリ・オリンピック男子フリースタイル74kg級銀メダルの高谷大地(自衛隊)、同57kg級金メダルの樋口黎(ミキハウス)らが指導し、同女子76kg級優勝の鏡優翔(サントリー)が参加するなど、外国の実力アップに協力した(関連記事)。
女子の普及面では、アフリカ選手権など男子グレコローマンより多くの国が参加しているケースもある。イスラム教の戒律が厳しい国を除けば、どの国も男女を実施する必要性を認識し、実行しているので、あとは世界で通用する選手をどこまで育てられるかが、レスリングの発展に必要なこと。
エクアドルは、強豪が突然出現したわけではない。同国からは、53kg級のルシア・イェペスが2021年にU23で世界一に輝き、2023年世界選手権では銅メダル、2024年パリ・オリンピックで銀メダルを獲得。国に世界チャンピオン誕生の期待と雰囲気が高まった末の世界一奪取だった。まず、こうした状況をつくることが必要。
現在、まだ世界チャンピオンは生まれていないが、早ければ2028年ロサンゼルス・オリンピックまでの2度の世界選手権で誕生してもおかしくない国としては、インドとキューバが考えられる。
■インド=2024年パリ・オリンピックで50kg級のビネシュ・フォガトが同国初の決勝へ進出(計量失格で順位なし)。2021年東京オリンピック後の世界選手権では5人がメダルを手にしている。昨年のU17&20アジア選手権とU17&23世界選手権の国別対抗得点では日本を上回って優勝(日本が不参加のU23アジア選手権でも優勝)
■キューバ=U23では2選手が世界一に輝いている。2018年のユース・オリンピック73kg級優勝のミライミス・マリンが、2024年パリ・オリンピックに続いて昨年の世界選手権でも銅メダルを獲得。優勝したジェネシス・レアスコ(前述)とは3-5のスコアで、世界一へあとわずか。歩調を合わせるかのように55kg級でもパンアメリカン選手権を2度制しているヤイネリス・サンス・ベルデシアが5位に入賞。全体の底上げがある。

▲2025年アジア選手権で、約5ヶ月後に幻の世界チャンピオンとなったキム・オクユ(北朝鮮=世界選手権決勝で元木咲良相手に一度は手が上がった)を破って優勝のマニシャ・バンワラ(インド)。12月の国内選手権は57kg級で優勝し、同級でロサンゼルスを目指すことを宣言=UWWサイトより
最近こそ世界チャンピオンが生まれていないが、オリンピックでメダル4個獲得のマリア・スタドニクがコーチに回ったアゼルバイジャン、世界V4のスタンカ・ズラテバが会長になって組織改革から始めたブルガリア、名伯楽・栄和人が総監督に就任したモンゴル、戦争終結が待たれるスポーツ大国のロシアなど、復活が見込まれる国も多い。
日本の成績低下を願うわけではなく、最近3大会のオリンピック(18階級)で日本(12階級)、米国(4階級)、カナダ、ドイツ(各1階級)の4ヶ国しか優勝していない結果は、オリンピック競技として望ましい状況ではない。女子全体のレベルアップが望まれる2026年だ。