2026年1月10~12日、神奈川・磯子工業高校に関東の高校選手と小中学生選手が集結。「最強の練習試合」と銘打った「齋藤つよし杯関東高校大会」と合同練習が行われた。
高校選手の都県対抗で行われる試合は、計量なしで、熟練者と初心者との対戦になる場合は、エントリーにかかわらず対戦を変えることもあるので、あくまでも練習の一環。だが、神奈川県協会の齋藤つよし顧問(前県協会会長=衆議院議員時代に内閣官房副長官などを歴任)の冠がつき、以前は「南関東高校大会」、現在は「関東高校大会」の名称となって1993年から実施されている伝統ある“大会”だ。
1998年の神奈川国体に向け、同県強化の一環としてスタート。関東や静岡県、長野県、ときに広島県や韓国(仁川)からも強豪高校が参加してくれ、回数を重ねていった。コロナ禍で中止のときもあったので、今回が第30回大会。この日、会場にいた指導者の多くもこの大会の出場経験者。2012年ロンドン・オリンピック金メダリストの米満達弘(現自衛隊=山梨・韮崎工高卒)も出場した大会だ。
開催されてきたのは、多くのチームが集まれるようにと1月の成人の日に絡んだ3連休(ときに冬休みの最後)。1月末か2月初めに全国高校選抜大会の予選となる関東高校選抜大会があるので、その大会に向けて格好の“大会&合同練習”となる。
神奈川県協会の粟田敦会長(日本協会常務理事)は「神奈川県の国体強化の一環としてスタートしました。合同練習もいいのですが、実力アップには試合に慣れることが必要なので、試合形式で実施したと聞いています」と説明する。
合同練習や道場内での練習試合を応援に来る保護者はそうそういないだろうが、大会と銘打つことで足を運ぶ親はいる。この日も多くの保護者の姿があり、熱心に応援。わが子のみならず、チームメートの勝利には拍手が沸く。この緊張感は、合同練習や道場マッチでは経験できない雰囲気。
チャレンジ制度も導入しており、微妙な判定の場合はリクエストにしたがってビデオチェックで判定を下す。公式戦に近い状況をつくっての“練習”にメリットは多い。
“練習”なので、形式にこだわらず自由なことができる。そのひとつが補員同士も闘わせること。これによって、正選手でない選手にも試合の機会を与えることができる。
正選手が負傷で出場できない場合、高校入学後にレスリングを始めた補員選手が正選手に繰り上がる場合もあるわけだが、相手がキッズからの強豪選手だった場合、実力差がありすぎて試合にならない場合も出てくる。その場合は、お互いの監督が話し合って対戦を変えるなど、公式大会ではできないことができるのも“練習試合”のプラス面。
男女混合での対抗戦なので女子も実施しているが、選手数が少ないのが現状。階級にこだわっていては試合が組めない。1階級の違いなら、本人と監督の同意で試合を組むなど、とにかく「試合をさせる」ことがコンセプト。
粟田会長は「県内にずば抜けた強豪選手がいる階級では、他の選手は県外の選手と一度も試合をすることなく3年間を終わるケースもあるかもしれません。それでは実力向上は望めないし、気持ちも萎えます。リーグ戦形式にし、補員も試合をすることで、他県の選手とも多くの試合をこなし、実力アップの端緒としてほしい」と望む。女子についても、「県内に同じ階級の選手がいないケースも多い。1階級くらいの違いなら試合をさせてやりたいと思います」と説明する。
試合形式でやる以上、審判の存在は不可欠。国内B級資格を持つ指導者は多く、試合ごとに闘う両チームから審判を出してもらっているが、それでもチェアマンは中立の立場の審判がほしいところ。神奈川県協会は審判育成に力を入れており、国内A級審判員が8人在籍。この日は6人が協力してくれ、交代で3面マットを裁いた。
キッズ教室の指導者や保護者がこの大会で審判に挑み、C級資格を獲得して(これは都道府県協会の判断で授与できる)、B級受験の足がかりとする場合もあると言う。多くの都県を集めてのこうした大会を開催できるのは、審判育成にも努力している神奈川県の姿勢ならではのことだろう。
かつては県の強化のため広域に参加を求めたが、今年は山梨と栃木を除く関東6都県からの参加。粟田会長は、まず関東8都県からの参加を求め、「関東の団結と強化を目指したい」と言う。
時代の流れを反映しているのが、小中学生選手の合同練習を並行して実施していることだ。競技人口の減少を食い止めるべく、多くの高校でマットをキッズ教室として開放し、小中学生の選手を増やすことに力を入れている。その場合、高校の監督やコーチが指導にあたることが多い。
高校が遠征に出てしまうと、指導者不在で練習ができなくなるケースもある。そこで小中学生のための合同練習を実施。他県の選手と練習する機会をつくるとともに、高校選手の試合を見て刺激を与えることが目的だ。磯子工高レスリング場の2階を臨時宿舎として宿泊したチームもあり、新年最初の3連休は“レスリング三昧”というチームも。
一貫強化のモデルケースとなる神奈川県レスリング協会の試み。粟田会長は「(交通網の発達している)関東だからできることかな…」と“地の利”も可能としている要因と話し、どの地域でもできることではないとも話す。確かに、広域な地域では簡単にできないだろうが、前述の実戦練習を増やすシステム、審判員の育成、一貫強化への姿勢、初心者への配慮などの要素があるからこそ、チームが集まっていることは間違いない。
同県協会は毎年9月、高校入学後にレスリングを始めた選手のみの大会(アワタカップ)を実施。昨年は宮崎からも参加があるなど、普及面での努力も怠っていない。こうした少子化時代における競技人口減少の歯止めに取り組む姿勢も、評価されるべきこと。
大会の菅原和哉実行委員長(磯子工高顧問)は、いずれ全国大会で都道府県対抗の男女混合団体戦が実施される可能性も口にする。この大会がそのベースになる可能性は十分なわけで、そうなれば、各都道府県で女子選手を集めることに熱が入る。
いろんな面で、今後のレスリング界のあり方に一石を投じる神奈川県レスリング協会の取り組み。日本レスリング界の将来のイメージを示す意味で、注目が集まる。