女子の発展途上国の強化を促進するための世界レスリング連盟(UWW)主催の女子トレーニングキャンプが11月1日から愛知県大府市の至学館大・栄和人記念レスリング場(注=同大学での長年の功績を認められて谷岡郁子学長から命名された)で行われている(UWWリール動画)。
至学館大の川瀬克祥ヘッドコーチ、有延大輝コーチ、2016年リオデジャネイロ・オリンピック女子69kg級金メダルの土性沙羅コーチのほか、同4~5日は、昨年のパリ・オリンピック男子フリースタイル74kg級銀メダルの高谷大地(自衛隊)、4~7日は同57kg級金メダルの樋口黎(ミキハウス)が講師として参加し、ハイレベルの技術指導が行われた。
今春、谷岡郁子学長(日本レスリング協会名誉副会長)の尽力で、女子レスリングの発展に貢献するために至学館大とUWWとの間に締結したコーチ交換プログラムや交流の協定に基づく合同合宿。今回は15ヶ国から21選手、UWWからを含めて5人のコーチが参加した。
《参加国》
中南米=アルゼンチン、コロンビア、アクアドル、メキシコ、ベネズエラ、プエルトリコ
アフリカ=ナイジェリア、エジプト、チュニジア、ナミビア
欧州=クロアチア、スペイン、ゼルビア
オセアニア=オーストラリア
エクアドルからは、9月の世界選手権(クロアチア)の76kg級で同国史上初の世界チャンピオンに輝いたジェネシス・レアスコや、53kg級同2位のルシア・イェペスの世界トップ選手が参加したが、あとはアフリカ、中南米、欧州の国とオーストラリアから、大陸選手権では上位に行くが、世界選手権ではこれから上位進出を狙う国の選手。
世界チャンピオンの来日を知って、パリ・オリンピック76kg級優勝の鏡優翔(サントリー)が4日夕方の練習に参加した。オリンピックのあと実戦をこなしていないが、12月の全日本選手権に復帰予定で、「緊張感を味わうため、急きょ参加させてもらった」と言う。
3分×2本の内容は、鏡が1度、タックルを決められたが、あとはお互いの手の内を探り合う一進一退に終始した。鏡は「練習をやっていなかった期間もある。今の自分の立ち位置を知りたかった。パワーは思った以上ではなかったけど、現役の世界チャンピオンは強かったです」と相手の強さを認めつつ、ブランクがあることを考えると悲観的な気持ちもない。
オリンピックのときはできていたけど、今はできなかったもともあったそうで、「全日本選手権に向けていい刺激になりました」と話し、復帰途上の練習としては価値ある練習になったことを強調した。
コーチの一人のアムリ・マルワ(チュニジア)は、2016年リオデジャネイロ・オリンピックでアフリカ女子初の銅メダルを獲得するなど、2021年東京大会までオリンピック4度出場、13度のアフリカ・チャンピオンに輝いた強豪選手。2選手を連れて参加し、同国とアフリカの女子の発展を目指している。
練習は1日3回。朝6時半から至学館大の選手とともに体力トレーニング、午前9時半から技術指導を受け(至学館大の学生選手は授業のため、外国選手だけによる練習)、午後5時から至学館大選手とともにスパーリングを中心とした練習。
午前練習のあとは、参加したコーチでミーティングを実施。外国コーチから栄養についてや試合での緊張に対する対処法などの質問に対し高谷や樋口が答えるなど、“コーチ学”の指導、交換も行っている。
高谷は「川瀬コーチからの依頼があり、自分自身の勉強になると思って引き受けた」と言う。4日はフェイントをかけてのタックルなどを伝達。「向上心のある選手ばかり。だれもが純粋にレスリングに向き合っていることが伝わってきました。指導していて楽しかった」と言う。
国内チームの指導と違って英語を使わなければならず、「取ってつけたような簡単な英語です」と苦笑い。しかし、レスリング用語は世界共通で、「フェイク(フェイント)」「ウォーター・ブレーク(給水タイム)」などを駆使して奮戦。「皆さん、しっかり理解してくれたと思います」と、指導の手ごたえは感じた様子だ。合宿は11日まで行われる。