オリンピック2度優勝、世界選手権4度優勝の成績を残して引退を決めた金城梨紗子(サントリー)の報道陣との一問一答は下記の通り(一部略。2025年10月12日、静岡・焼津市民体育館)
--引退決意までの経過は?
金城 本来なら東京オリンピックで優勝し、きれいなやめ方を考えていました。周囲には、東京オリンピックが終わったら、やめます、とも話していました。結婚して妊娠し、自分だけの体じゃなかったとき、レスリングをやりたい、という気持ちに変わったんです。妊娠中、友香子の試合を見て、友香子だけじゃなく同世代の選手の試合を見て、自分ならこうするのに、とか思って。子供が生まれたあと、もう一度やろう、となりました。でも、負けて終わるのが昔からとても嫌でした。
パリの予選で負けてしまいましたが、ママで世界一、というのは日本でだれも成し遂げたことがないことで、それができたら理想かな、と。去年の10月にそれを達成することができ、もう欲しいものがないな、という気持ちになりました。オリンピック2回、世界選手権4回、そのうち一回は姉妹優勝で、レスリング選手として幸せなことを経験し尽くしました。もう満たされたと思い、もう、趣味がレスリング、という人生でいいと考えました。
--オリンピック連覇を含めて、印象に残ったことは?
金城 東京オリンピックは友香子の試合のイメージばかり残っていまして…。自分の印象は、国内予選(伊調馨との激闘)が今までにない厳しい闘いでして、レスリング界以外からも注目してもらいました。だれにもできる経験ではなかったことが、すごく印象に残っています。苦しい期間でしたが、今となっては経験できてよかった、と思っています。
--伊調選手との激闘は、見ている人にとって忘れられません。あの闘いができたことについて。
金城 人生の中で、考え方を変えさせてもらったことです。その期間で、試練というか難しいことに対する考え方が変わりました。あれがなければ、東京オリンピックに2人で出ることもなかったでしょうし、産後も続けることはなかったと思います。レスリング人生の中で、大部分を占めるくらい濃縮された2年間でした。私の人生や価値観を変えてくれました。今は、辛かった時期に感謝できます。
--辛かったのは、2018年12月の全日本選手権で負けたときですか? 翌年7月のプレーオフへ向けてのときですか?
金城 負けたときですね。周りの目が気になって、怖くて。子供を産んでパリの予選に出て負けましたけど、あのとき(東京への予選)に比べたら、どうということはなかったです。あのときほど辛いことはなかった。7年たちますけど、あれを超える辛さはなかったです。自分の強みになっていると思います。
--世界選手権で優勝し、ここまでの約1年間の気持ちは?
金城 自分の気持ちの中では、世界選手権での優勝で満足でした。そのあと、国内の大会を見てどんな気持ちになるかな、と思っていました。一人目の妊娠のときは、他の選手の試合を見て、自分ならこうする、とか思ったのに、今年は客観的に見ている自分がいたんです。そのとき、自分はもう選手として闘うことはないんだな、満足できているんだな、と実感しました。
--引退することをご家族に伝えたのは、いつですか?
金城 世界選手権から帰国したときです(笑)。もういいかな、と。
--発表をこの日にしたのは?
金城 レスリングは、オリンピックのときは注目されますけど、それ以外では注目が低い。川井姉妹という名前で、2人を合わせれば皆さん(報道)が来てくれるかな、と(笑)。
最初はSNSでの報告だけという方法もあるかな、とも思いました。でも、今まで皆さんにたくさん取り上げていただき、皆さんに直接お会いすることもなく「さようなら」というのも、(方法として)違うかな、と思いました。知っている方には連絡して、来ていただければ、ありがとうございます、という気持ちでした。作戦です(笑)。友香子は復帰戦で緊張すると思うけど、「いい?」と聞いたら、「いい」ということでした。
--妹の存在は?
金城 世の中に兄弟姉妹でオリンピック金メダルを目指せることは、そうそうないですよね。それを経験させてくれたことはありがたい。友香子が頑張ってくれたから頑張れた部分はあります。コロナの期間は大変でしたけど、一緒に頑張ろう、となって気持ちを途切れさせることなく努力を続けられました。ありがとう、と言いたい存在です。
--娘さんは、引退を認識していますか?
金城 分かってないと思います(笑)。総合格闘技をテレビで見て、コーンロー(髪型)の女子選手を見て、「ママみたいだね」とは言いまして、私がレスリングをやっていることは分かっていると思いますけど、引退までは分からないと思います。
--選手を引退して、これから一番の目標は?
金城 妊娠期間中に、生むことは別にして、一人の人間として目標がないことにモヤモヤしていた時期がありました。(目標は必要だが)今は家族ですごせる小さな幸せを感じて日々を送りたいと思っています。目標というより、日常の小さなこと、家族っていいな、と感じられるような生活を目指したいです。
--出産した選手に、出産しても選手活動を続けるという選択肢を与えたと思います。子供を持って競技を続けるかどうか迷っている選手に、どんなことを言いますか?
金城 出産後に復帰するとなると、いろんな人の協力が必要だし、いろんな人を巻き込んでやることになります。それに対し、罪悪感を感じて踏みとどまってしまう人もいるかと思います。私は、母になったけど、一人の人間としてどう生きたいかを軸に考えていました。迷うなら、やった方がいい、と思います。自分の気持ちに素直になった方がいいのでは、と思います。
--レスリング選手だった母(初江さん)に対しての気持ちは?
金城 子供の頃から24年間、レスリングをやってきまして、ここまでやらせていただいて、母だけでなく、父もレスリングをやっていましたが、両親に感謝したいです。私が出産してもレスリングを続けたときも、応援してくれ、背中を押してくれました。感謝の気持ちでいっぱいです。
--やり切ったレスリングの魅力とは?
金城 ……。(目の前の某女性カメラマンに対して)何ですか? オタクなんだから、分かるでしょ(大爆笑)。
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