2021年東京オリンピックで、あらゆる競技を通じて初めて姉妹で同時に金メダルを取った旧姓・川井姉妹(ともにサントリー)が、2025年全日本女子オープン選手権最終日に引退宣言と復帰ロードのスタートを切った。
姉の金城梨紗子は、数日前からSNSで現役引退の決意を表明し、お世話になった担当記者へも連絡。この日、第2子の妊娠を公表するとともに、あらためて実戦マットとの訣別を口にした。
本来なら東京オリンピックで優勝し、「きれいなやめ方を考えていた」とのことで、周囲の人にはオリンピックが終わったらやめる可能性も話していたと言う。結婚して妊娠し、「自分だけの体じゃなかったとき、レスリングをやりたい、という気持ちになりました。妊娠中、友香子の試合を見て、自分ならこうするのに、とか思って…。子供が生まれたあと、もう一度やろう、と思いました」と心変わり。
パリ・オリンピックを目指して2023年全日本選抜選手権57kg級に出場したが、櫻井つぐみ(当時育英大)に敗れ、櫻井が世界選手権で優勝してオリンピック代表に内定したことで、その道は断たれた。しかし、「負けて終わるのは嫌でした」と、選手活動を続け、59kg級で2023年全日本選手権優勝、2024年世界選手権代表決定プレーオフを経て同年の世界選手権(アルバニア)へ出場。日本選手として初めて母親での世界一を達成した。
この優勝で、気持ちに踏ん切りがついたもよう。「もう欲しいものがないな、という気持ちになりました。オリンピック2回、世界選手権4回、そのうち一回は姉妹での優勝で、レスリング選手として幸せなことを経験し尽くしたと思いました」と話し、満足してマットを下りることを決意。この日の発表となった。
一方、妹の恒村友香子は2024年5月以来の試合に臨んだ。3月に長男を出産してからは初の大会出場。59kg級で大学生2選手を相手にフォール勝ちしたものの、準決勝でインターハイ57kg級優勝の木村美海(千葉・日体大柏高)に1-4で黒星。優勝はできなかったものの、メダルを手にして復帰戦を飾った。
「負けはしましたが、マイナスな気持ちではなく、課題がたくさん見つかりました。再スタートを切ったばかりなので、出てよかったと思います」と表情は晴れやか。初戦は、さすがに「すごく緊張していた」そうだが、「これまで子育てと両立できることを、しっかりやってきた」という気持ちが支えてくれたと言う。
復帰の決心は、妊娠中に運動ができなかったとき、姉からのラインで「妻でもなく母でもなく、一人のレスリング選手としてどうなったら幸せか考えてみて」との問いかけに始まる。それを考えたとき、「一人の選手として、勝ちたいという気持ちだった」との結論が、復帰へ走らせた。
東京オリンピック後は、65kg級に出たり、パリ・オリンピック出場の可能性へかけて68kg級にも出て、最後に出た階級が65kg級。妊娠と出産で筋肉が落ちて体重も減り、今大会は59kg級にしたが、筋肉の戻り次第で新たな階級を決めるという。自分の体調だけでなく子育てとの兼ね合いで決めることになるが、「それも幸せなことかな」と、母親選手ならでは幸せ感もたっぷり。
姉の引退については、「これからは私のコーチとしてサポートしているので心強いです」と話した。
姉は「私のとき(出産のあと復帰したこと)、『自分は絶対にやらない』と言っていたのに…。初めての子育てで試行錯誤していく中で、よく戻ってくる決意をしたと思います。強いな、と思います」と説明。自身の出産後の復帰戦もこの会場だったが(2022年)、「自分がやっているより、見ている方が『すごいことをやっている』と思って、感慨深いものがあります」と話し、今後は妹の決断を全面的に支援していく予定だ。