2025.08.19NEW

【直言! 過去・現在・未来(11)】IOCの会長選びに感じる公明正大さ、レスリング協会・会長選出方法の改革を(下)

《上から続く》


従来なら会長になるはずだった田嶋幸三氏が真っ先に落選

 今年6月に行われた日本オリンピック委員会(JOC)の会長選びは、当初、影の実力者(政治家)によって、田嶋幸三氏が会長になる道筋ができていた。6月23日の本欄で報じたが、同氏は2021年6月の役員改選で、東京オリンピックを前にしながら「10年任期」を遵守するため理事と副会長を潔く退いた。規定では、4年の期間を置けば理事に復帰できるので、次期会長に白羽の矢が立った。

 従来なら、この根回しで会長決定だったが、政治力の介入を懸念するグループがストップをかけ、橋本聖子氏を擁立(彼女も政治家だが…)。さらに、それまでの三屋裕子会長代行も推され、三者による選挙が行われた。投票数が明らかにされないなど、ここも「密室政治」が色濃く残っているし、森喜朗氏の“秘蔵っ子”とも言われる橋本氏擁立に何らかの政治力があったことが推測され、民意の反映とは言いがたい。しかし、選挙が行われたことは、一歩前進だろう

 出席した理事がメディアに証言したところによると、第1回投票で3人とも過半数に届かず、最低投票数だった田嶋氏が落選。2人の女性候補者による決選投票で橋本氏に決まったという。従来なら会長になるはずだった田嶋氏が真っ先に落選したあたりに、権力者の指名や談合による会長選出方法は、もはや受け入れられない現実が表れたと言えよう

▲日本オリンピック委員会史上、初めて投票で選ばれた橋本聖子会長

 参考までに、橋本会長が決まったのが6月26日で、専務理事ほか全役職が決まったのが2週間後の7月10日。これが普通である。2019年の山下泰裕会長の選出のときは、6月27日に会長に選出され、その日のうちに副会長や専務理事がすべて決まっている。前述の日本レスリング協会の役員決定が、評議員会直後の理事会だったことも同じ。

 事前に会長ほかの人事が決まっていたからこそ、即日で決まるのである。こんな談合による会長選びと執行部づくりは、もうやめてほしい。

IOC委員の民意の反映がコベントリー新会長の誕生

 今年の国際オリンピック委員会(IOC)の会長選挙は、公明正大だった。トーマス・バッハ会長が任期満了となって後任選びとなり、2024年9月、国際体操連盟の渡辺守成会長ら7人が次期会長に立候補した。今年3月までの約半年間、各候補は取材を受けたり各国を訪問したりして公約を掲げた。

 渡邉氏は、世界五大陸の5都市で同時期に夏季大会を共催する「五大陸オリンピック」のほか、「IOCは、より積極的に社会貢献活動に取り組むべきだ」と訴え、日本人初のIOC会長を目指した。

 同氏は、任期切れとなるバッハ会長の任期延長を求める声が相次いだ際、「スポーツ組織は高潔さを保ち、ルールを守らないといけない」と、ただ一人、明確に反対を表明したIOC委員でもある(注=バッハ会長自身が延長を固辞)。この信念の強さがバッハ支持者の票を失ったのか、4票しか集まらずに落選(5月18日の本欄で書いたように、正論はこうなりやすいんです。でも、渡邉氏の主張は200%正しいので、私はこの正論を支持します。バッハ会長は良識ある立派な会長だったと思います)。

▲地位・肩書にしがみつかず、IOCの規定を遵守したトーマス・バッハ会長(中央)。右は世界レスリング連盟(UWW)のネナド・ラロビッチ会長=2018年世界選手権(ハンガリー)

 カースティ・コベントリー氏(49票=ジンバブエ)の当選にはバッハ会長の大きな力があったとされるが、選挙による会長選出は極めて明瞭な結果。だれをも納得させられる。影の力はどの選挙でもあること。IOC委員の民意の反映の結果が、コベントリー新会長誕生だった。

今の制度なら、若手が入り込む隙間や方法がない可能性あり

 このあたりで、レスリング協会も民意を反映させる会長選挙方法を取り入れてはどうだろうか。例えば、協会登録者による選挙だ。

(1)会長選挙に投票できる選挙権は、18歳以上の協会登録者が持つ
(2)会長に立候補できる被選挙権は30歳以上の協会登録者にあり、現理事の中から最低2人の推薦を受けることが必要(冷やかしの立候補を避けるため)
(3)選挙前に、協会ホームページほかにて公約を掲げ、候補者による座談会を実施して動画にアップするなど、各候補の方針や意気込みを極力伝える
(4)選挙は1週間をかけてインターネットで実施。ネット投票に不正がないよう、徹底したチェックシステムを導入する

 今の制度を続けるなら、若手で会長に手を挙げる人がいても、入り込む隙間・方法がない可能性がある。IOCの公明正大な会長選びを見て、そんなことを感じた次第だ。

 すべては、「オレが(私が)協会を変える!」という意気込みを持つ若手が出ないことには話が進まない。若い人間には、私達の世代では考えられない発想があり、ついていけないSNSの駆使能力がある。レスリングをメジャーにしたいという情熱を持っている人も多い。加えるべきは、上と闘う度胸であり、旧態依然とした組織を打破する力だ。私は、若いパワーとエネルギーにレスリング界の将来を託したい。

厳然たる上下関係の中にも、勇気をもって訴える若手がいたレスリング界

 最後に、JOCが初の会長選挙を行ったことに対し、一部で「スポーツ界にとって画期的な出来事」と報じられているが、日本レスリング協会は過去、一度だけ選挙による会長選びが実施されたことを付記しておきたい。1987・88年度の会長選びで、村田恒太郎(明大OB)、風間栄一(早大OB)、笹原正三(中大OB)、小玉正己(早大OB)の4氏が理事会にて立候補、または推薦を受けた。

 総会(評議員会)へ挙げるにあたり、「理事会での話し合いで1人に絞る」「立候補者による話し合いで1人を決めてもらう」「2人に絞って総会へ」などの案が出たが結果、「公明正大に投票で1人に絞る」となり、風間栄一氏が出席理事22人のうち半数の11票を獲得。総会に推薦され、会長に決まった。

 このとき、村田恒太郎氏(当時65歳)は理事長。前年の全日本選手権で審判委員会が順位を間違えてしまい(勝ち点方式という複雑なシステムだったんです)、アジア大会(韓国)に出場するはずの選手が出場できなかったことの詰め腹を切らされ、1986年度いっぱいで引責辞任することになっていた。だが、新年度の会長選挙に立候補した。

 議事録には、某理事(当時48歳)の「辞任を表明している者は立候補すべきではない」との発言が載っている。会議の場で、本人を前にしてそんな言葉を発する若手がいたのだから、熱い協会だったんだなあ、と感じる(理事長の辞任も、国体時の全国会議の場で年下の地方役員からの強烈な突き上げの結果です)。

 1968年メキシコ・オリンピック直後の機関誌には、老害排除を訴える記述が載っており、厳然たる上下関係の中にも、勇気をもって上と闘う若手がいたことは確かだ(その人が年をとると、同じように地位・肩書にしがみつき、それが繰り返されたことが問題なのだが…)。

 今の若手に望むのは、こうしたエネルギーであり度胸。 「レスリングをメジャースポーツに変える」という気概を持つ若手が出てくれることを、強く願いたい。


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■2025年6月9日:(8)「密室政治」で会長を決める日本レスリング協会に、未来はあるのか?
■2025年5月17日:(7)「正論」は必ずしも正しくない! 「選手救済」のルールづくりを
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