2025.08.14

【特集】創部17年目の九州共立大が躍進! 「見張らないと練習しない、というチームにはしたくなかった」の方針が実る(下)

《上から続く》


高校に門戸を開放、雰囲気のよさを感じてもらう

 九州共立大の藤山慎平監督が、チームの雰囲気のよさを感じるのは、高校の競技人口が減っていて、大学へ進んでからもレスリングをやりたい高校選手を各大学が“奪い合う”ような面もあるスカウト戦線で、九州のみならず関東・近畿を含めた全国から選手が入学してくれること。スポーツ推薦制による特待制度が理由ではなく、「九州共立大でやりたい、と言って志願してくる選手も多いんですよ」と言う。

 新人獲得にあたっては、まず、多くの高校に門戸を広げて練習に参加してもらうことから始める。数日間、練習や生活をともにすることで、「気にいってくれます」と自信を持つ。「レスリングは高校でやめます」という選手が数日間過ごしたあと、「続けてみたい」と気持ちを変えたケースもあったと言う。

▲部のいい雰囲気づくりに成功した藤山監督(左)。向こう側はレスリング部専用のトレーニング場

 新人と言えば、今年の新人選手権では、入学後にレスリングを始めた選手が優勝する快挙も成し遂げた。陸上・円盤投げから転向し、男子グレコローマン82kg級を制した山下智誠(福岡・飯塚高卒)。円盤投げでも福岡県の予選を通過し、全九州大大会で上位に顔を出していたが、限界を感じていたところ、パリ・オリンピックの清岡幸大郎の試合をテレビで見て引き込まれ、マットに活路を求めたそうだ。

初心者の新人選手権優勝の要因は?

 アンクルホールドの連続が「カッコよかった」と言う。清岡はフリースタイルの選手だが、グレコローマンをやるようになったのは、「(グレコローマンという)名前がカッコよかったから」-。これが“令和の学生”の気質なのだろう。

 レスリングは筋力、筋持久力、心肺機能など多くの面でハイレベルのものが要求される競技だけに、最初は「ウォーミングアップにもついていけなかった」と言う。円盤投げという投てき競技をやっていたので、腕力や瞬発力があったのが幸いした。

 周囲に自主的に練習する雰囲気があり、心肺機能など劣っていた部分は自分で補うなどしたことがよく、新人選手権では3試合のうち2試合をテクニカルスペリオリティで勝っての優勝。柔道などの他の格闘技からの転向でなくとも、腕力・瞬発力が鍛えられる競技の選手は、レスリングに適応するのかもしれない。

▲カメラを向けている最中、ほとんどカメラ目線だった山下智誠。この目立ちたがり精神が、勝利の秘訣か?

 段階的に考えれば、次の目標は9月の西日本学生選手権となろうが、この優勝で全日本学生選手権と全日本選手権への出場権を獲得し、東の選手との闘いもありうる状況となった。いずれの大会も「優勝します!」ときっぱり口にする意気込みは、躍進チームを象徴している言葉と言えよう。

西日本の選手全体の意識を変えたい…藤山慎平監督

 藤山監督が西日本リーグ戦での不動の地位を目指す一方、東に対抗できるチームを目指すのは、西日本の多くの大学の監督と同じ。日体大のハイレベルの中で練習をやってきた同監督の目から見て、東と西で大きく違うのは、長い間言われ続けていることだが、「意識」だ。高校時代に全国王者になったことのない選手が多いので、東の選手に「勝てるわけがない」という意識が根底にあると言う。

▲西日本の選手の意識改革が次の課題となる藤山監督

 その気持ちは、同監督も「よく分かる」と言う。福岡・北九州高時代は全国王者があったわけではなく、日体大に進んだ当初は、トップ選手に「勝てるわけがない、という気持ちがありました」と言う。

 だが、湯元健一(オリンピック2度出場=現大体大監督)や小島豪臣(2006年アジア大会銀)らの強豪選手に引っ張られるうちに、少しずつ意識が変わっていった。今の部員に押しつけるつもりはないが、休みの日にも練習に付き合わされたりするうちに、「これだけ練習しているんだ。負けたくない」という気持ちになっていった。

 その結果が、2006年全日本学生選手権での優勝だ。「努力したら勝てる」「意識を高く持てば勝てる」ということを、押しつけではなく教えていき、西日本の選手全体の意識を変えたいという。

 全日本学生選手権を制した長野主将(前述)は、東の大学選手に対する気後れは「全くなかった」と言うが、他の選手について聞かれると「やっぱり感じますね」と話す。その壁を乗り越えるには「練習量しかないと思います」ときっぱり。やらされる練習ではなく、自主的な練習であることは言うまでもない。

▲2023年全日本学生選手権、2年生にして優勝の長野壮志。東の大学6選手をすべてテクニカルスペリオリティで下しての優勝だった

「あぐらいかいていると、すぐ落ちますね」と気を引き締める

 藤山監督は、最終的には「やはりオリンピックに出る選手を育てたいです」と言う。その思いも、少しずつだが実現へ向かっている。2019~21年に3年連続で男子フリースタイル61・65kg級の西日本学生王者となった秋山拓未(静岡・焼津水産高卒)が自衛隊に進み、昨年の明治杯全日本選抜選手権で優勝するまでに力をつけた。清岡幸大郎らの牙城を目指す。

▲壁には、唯一の全日本選抜王者の秋山拓未(現自衛隊)を筆頭に栄光のパネル写真が飾ってある

 荒木瑞生コーチ(前述)が、2年間の大学院を終えた来年度も選手生活を続行する意思を持ち、支援してくれる企業を当たっている。非オリンピック階級の選手なので、階級を上げて2028年ロサンゼルス・オリンピックを目指すというより、まず世界チャンピオンが目標。

 2023年の全日本学生選手権で勝っている山際航平(日体大~フレアス)が今年のアジア選手権で優勝したり、昨年3月に善戦したイラン選手が7ヶ月後の世界選手権で2位に入った事実などからして、不可能ではないと考えるようになった。

 企業のサポートを受けて現役続行となれば、練習場所は引き続き同大学のレスリング場となる。「学生王者で、すばらしい指導者になった人もいますけど、やはり全日本王者になっていた方が、いいと思うんです。選手からのあこがれにもなると思う」と話す。

▲2025年後半の活躍が注目される九州共立大

 チームの指導もするので、チームにとっては頼もしい援軍となり、活気につながることは間違いない。それは、チームからオリンピック選手を生み出すことにつながる。

 2度目のリーグ戦優勝で、いい方向へ回転しそうなムードだが、藤山監督は「あぐらいかいていると、すぐ落ちます」と話し、今月の全日本学生選手権へ気を引き締めて向かうことを誓った。

《完》