強豪選手を数多く輩出した神戸西高校と育英高校の伝統校にレスリング部がなくなり(注=神戸西は須磨高校と統合されて須磨翔風高となり、部は存続しているが、神戸西高としての歴史は終わった)、代わって猪名川高校が全国トップレベルに躍進した兵庫県。個人戦の全国王者のみならず、学校対抗戦でも2023・24年インターハイで連続で3位に入るなど、全国的にも台風の目になっている。そんな兵庫県で、「オレ達を忘れるな」と奮戦しているのが、神戸高塚高校だ。
2021年のインターハイ県予選では、1・2年生のみのチームながら猪名川高を破って優勝。これが初の県制覇とのことで、個人戦でも4人がインターハイ出場を果たした。そのときのメンバーの一人、春風飛翼(2022年JOC杯U17男子グレコローマン92kg級5位)は現在、周南公立大のレギュラー選手として活躍。今春、大体大に進んだ春成飛翔(2024年インターハイ92kg級5位)は今月の西日本学生新人選手権で優勝。大学へ進んでも結果を出せる選手が育っている。
インターハイ出場のときの指揮官は、高校時代に国体王者に輝き、猪名川高にレスリング部を創部した長和徹監督。すなわち、自分が育てた古巣を破ってのインターハイ初出場だった。現在は、神戸西高~日体大でレスリングを続けた藤田康人監督が引き継いでおり、今年のインターハイは個人対抗戦で2選手を出場させる。
藤田監督は「猪名川、強いですね」と、猪名川高の強さをたたえる。同校の強さは、猪名川クラブから続く一貫強化。中学で途切れるという全国共通の難関にも遭遇したが、日体大~自衛隊でレスリングをやっていた池畑耕造氏(現在は一般自衛官)がその壁に挑み、中学生も指導することで壁を乗り越えた。
神戸高塚高校レスリング場でも、キッズクラブの「神戸高塚レスリング・クラブ」が練習しており、取材日には4人の中学生選手が練習に参加。“タッグチーム”で飛躍を目指している。
だが、中学生になると他のスポーツへ進む選手が多いという。現在の部員のうち、入学前にレスリングを経験していた選手は3年生の2人のみ。野球、卓球など格闘技以外からの転向選手が多く、キッズ・レスリング経験者に対して大きなハンディがある。
同監督は、そうした初心者選手への指導を問われると、「技は教えるものの、練習の多くは(主将を中心とした)選手に任せています」と言う。選手に考えさせて練習させ、自主性を養う、という指導は現在の高校レスリング界の主流のようで、監督が声を張り上げて叱咤する時代ではない。
日体大時代に経験した練習をそのままやっている部分もあると言う。体力トレーニングは、懸垂やハイクリーンなどレスリングに役立つメニュー。常に実戦を意識したレスリングに有効な練習をやり、汗を流して息を上げることが目的にならないよう心がけている。
3年生が引退する今年秋は、全員が高校に入学してからレスリングを始めた選手のチームになる。藤田監督の指導する場面も多くなるかもしれないが、練習の基本を変えることはなさそう。昨年の全日本マスターズ選手権のDivisionB(40~45歳)62kg級に出場。現役時代、豊田雅俊、笹本睦というアテネ・オリンピック代表選手を相手に奮戦した技量は衰えておらず、2位に入賞するなど元気いっぱいなだけに、選手の自主性に期待しつつ、要所で熱い指導が展開されそうだ。
週に数回だが、高校の教員1人と近くの総合格闘技ジムで柔術をやっている選手2人が練習に参加し、高校生の相手をしているという。技術体系の違う格闘技とはいえ、同じ組み技格闘技。いろんなタイプの選手と練習することはプラスになり、マンネリ防止にもなる。ありがたい存在と言えるだろう。
多くの選手と練習するため、和歌山県や奈良県の高校へも足を伸ばして合同練習も行い、今年2月には天理大で行われた関西の高校・大学が集まる関西オープン合宿にも参加。パリ・オリンピック金メダリスト(日下尚、清岡幸大郎)の指導を受けるなど積極的な姿勢を示している。