※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子)
厳寒な冬に終わりを告げる3月2日、恒例の全自衛隊レスリング大会が東京・朝霞駐屯地で行われた。初日には各部隊による団体戦が行われた。昨年までは5人制で行われていたが、「より多くの部隊員に参加してもらうため」と、5人制に加えて3人制団体戦も開催。好評で、第1回にもかかわらず9部隊のエントリーがあり、決勝は信太山が陸上自衛隊高等工科学校を2-1で下して初優勝を遂げた。
信太山を優勝に導いたのは、未来のある若手選手だった。団体戦のしんがりとして+74kg級に出場した福井裕士(右写真)は、初戦の第32普通科連隊戦で、2008年北京五輪の男子グレコローマン96kg級代表の加藤賢三と対戦。現役時に世界で闘った“加藤の首なげ”を封じて2-0と快勝した。
■所属部隊に恩返しし、4月からレスリングに専念
準決勝では、元全日本選手権3位で現在は防大監督の勝目力也を擁する防衛大学校Aと対戦。を同じく“大将戦”の+74kg級を2-0で制してチームを決勝戦に導いた。決勝は、試合前から痛めていた右足の状態が悪く、1、2番手がともに白星を挙げてチームの優勝が決まったことで棄権したが、五輪選手を破るなど信太山の優勝は福井の活躍があったからこそと言っていいだろう。
福井は「加藤さんとの対戦は、やはり投げ技を警戒していました」と振り返る。5年前の北京五輪を機に第一線を退いた選手とはいえ、「昨年の岐阜国体にも出て3位に入賞していた。組んだら力が強いということは分かっていました」と気合を入れて試合に臨んだ。
対策としては、「自分の距離(間合い)で試合を進めた」と、組みたがる加藤に対して、手を前に出して距離をとる作戦が見事にはまり、2-0で勝負をつけた。
北京五輪代表の加藤賢三を攻める福井(赤)
■西日本の大学で全日本選手権3位の実績
天理高は柔道の強豪校として知られている。総合格闘技などに興味があった福井は、大学からレスリングに転向。天理大は西日本学生リーグ戦で二部リーグのチームだが、福井は日体大出身の白石俊次監督との出会いで飛躍を迎えた。
「監督が支援してくれて、拓大などの合宿に一人で参加させてもらいました。拓大の西口茂樹部長は、他大学の僕にまで思い切り怒ってくれ、熱心に指導してくれました」。
これをきっかけに、大学3、4年で西日本学生選手権のフリースタイル96kg級を連覇。全日本学生選手権の同級で3位にまで成長した。学生のトップレベルへの成長を実感した福井は、「自衛隊でもっと上を目指したい」と、昨年4月に自衛隊に一般入隊。1年間の訓練を経て、4月から体育学校への入校の発表を待っている状態だ。
■目標は全日本王者の山口剛
「リオ五輪を目指すために自衛隊に来ました。体育学校に入れたら、レスリングが180度変わると思っています。コーチを信じ、ここで頑張れば絶対に強くなれる。これまで、私は天理高、天理大と天理教に育ててもらいました。その恩返しのためにもレスリングで頑張るんだと決めています」と確固たる信念がある。
この1年の訓練で、通常86kgだった体重が92kgまで増えた。技術的には、タックルからのタイミングや組み手からの崩しを主に研究中だ。「目標は全日本チャンピオンの山口剛(ブシロード)を倒して全日本王者になること。高校時代から有名だった選手を倒して優勝したいです」。西日本の“たたきあげ”が自衛隊で覚醒なるか―。