横山茂嘉部長は、指導のメーンを長男に譲った現在、選手の人格形成に力を入れる。山陽高校(現おかやま山陽高校)に奉職して44年目の現在まで「欠席、遅刻、早退なし」をキープしたのは、生徒に自己管理することの大切さを教えるため。「正しい生活をおくらなければ、選手としての成長もない」と伝えている。
コロナやインフルエンザは皆無。祖父、祖母、父、母の葬儀さえも、学校の授業は休まず、外出届けで喪主を務めたというから、徹底している。横山監督も、父の教えを守って学校を休んだことはないそうだ。1日1日を大事にするからこそ、選手としても人間としても成長する。その根本は「毎日を大事にする」だ。
ポリシー(信念・信条)のひとつが、だれかと意見がぶつかったとき、「正しいと思った方が謝る」だという。一見すると理にかなっていないように思えるが、正しいと思って相手を論破しようとしても、相手は意地になって返してくるので話が終わらない(戦争なんて、そんなことから始まるのかも知れない)。
本当に正しいかどうかは分からないが、自説が正しいと思うなら、「謝る」というより「一歩引く」。無駄で意味のない論争はしない。「社会は、それで成り立つと思うんです」。人生経験を積まないとこの境地には達しないと思うが、時間を無駄にしないことは大切なこと。論議の是非は世間が判断してくれる。
同部長は「浅口市は、高校レスリングの歴史が変わった地でもあるんですよ」と昔を懐かしむ。1980年前後、高校レスリング界は青森・光星学院高校の天下で、その勢いはどこも手がつけられない状態だった。真っ向から挑んだのが茨城・霞ヶ浦高校。大澤友博監督(昨年9月に死去=関連記事)が「光星学院以上の練習をしなければ勝てない」として1日4回の練習を実施(朝、昼休み、放課後、夜)。
1986年のインターハイが浅口市の天草公園体育館で開催されるにあたり、事前に視察した同校の伊勢崎和人コーチ(横山部長の日体大同期)は、大澤監督にその現状を伝えた。エアコンもない体育館(当時はそれが普通だったが)で風通しなどを考えると尋常ではない熱さの中での試合になると予測。7月にレスリング場でストーブをたき、室温40度の空間をつくって練習を実施した(関連記事)。
その成果が実り、決勝で光星学院を破って優勝。その天下にピリオドを打ち、以後、霞ヶ浦の天下を築いて不滅の金字塔を打ち立てた。横山部長は、日体大の先輩でもある大澤監督に何度か「思いでの地に来てください」と声をかけ、「行きたいね」との答えをもらっていたが、実現しなかったことが残念そう。病床の大澤先輩へのお別れの電話となったのは昨年の夏。最後の言葉は、お互い「ありがとう」だった。
高校レスリング界の歴史が動いた地なればこそ、今度は自分たちが歴史を動かしたいという気持ちは十分だ。
横山太監督は、3年連続で学校対抗戦に出場するインターハイ(7月27~30日、島根・雲南市)では「最低でも1つ、2つは勝ちたい」と控えめ(注=取材時点で組み合わせは未定)。中国大会で優勝したとはいえ、全国的には発展途上の地域の優勝だけに大言壮語はしたくないようだ。
決まった組み合わせでは、2回勝てば昨年優勝の鳥栖工(佐賀)と当たることになるので、ここまでは勝ち進み、来年へつながる貴重な経験を積みたいところだ。
■男子55kg級・岡田淳之介主将「常に意識してきたのは、全国に出たら47番目、という意識です。周りは強い選手ばかり、常に『やらなければ』という意識を持って練習しています。インターハイへ向けて、しんどいことがあっても、しっかりやる、という気持ちを持っています。しんどくても顔に出さないこと。必死になってやらなければ、強くならない。全員が必死にやっています。
インターハイは、どんな組み合わせであっても、気持ちで負けては駄目。どんな強豪チームと当たっても『絶対に勝てる』という気持ちを持ちます。『強い選手が勝つ』のではなく、『勝った選手が強い』のです。強い選手も、いつかは負ける。そういう意識です。(学校対抗戦、個人対抗戦とも)表彰台に立つことが目標です。
中学時代まではバレーボールをやっていて、高校入学後にレスリングを始めました。相撲の大会に出たとき、横山監督に声をかけられました。新しいことに挑むのが好きなので、やってみようと思いました。勝ち負けを、だれのせいにもできないスポーツ。負けたら自分のせい。自分のために頑張れば、自分が強くなる。常に自分に矢印を向ける競技で、それが自分に合っていた。とても楽しいです」
■女子46kg級・工藤姫羅(チーム唯一の女子部員でインターハイ出場を決めた1年生)「柔道から高校入学後にレスリングを始めて、まだ3ヶ月です。父(インターハイ、国体出場)がこのチームでレスリングをやっていて、勧められて転向しました。中国大会で優勝できて、びっくりしました。全国大会では、中国大会のようにうまくいかないと思いますけど、精いっぱい頑張りたいと思います。動画で見た全国トップ選手は、腰の位置が低くて、動きが速くて、怖い、と思うことがあります。
入学したときは全国大会出場が目標でしたが、それが達成できたので、インターハイでは入賞を目指したい。3年間のうちに優勝を目指したい」
国立の天文施設が集まる「天文のまち」としても知られる浅口市。無限の宇宙へ挑むような闘いが期待される。
《完》