《上から続く / 取材・撮影=保高幸子》
レスリングの指導で意識していることは、日体大時代の藤本英男監督の教えでもあった「実戦を意識した練習」。練習のための練習になてしまいがちな中、苦しさに耐える練習だけではなく、試合で勝つための練習を心がけている。この季節は、練習のあとは全員でレスリング場の隣にあるプールへ飛び込んでのリラックスタイムで、高めた神経もクールダウンさせる。
自分の経験を実践したり、押しつけることもしない。月2回、ピラティス&パーソナルトレーニングジムの「cross fit kumamoto」に通って体づくりに挑み、トレーナーから朝練習のトレーニングメニューをつくってもらう。合宿所の食事は、栄養管理士のアドバイスをもらって取り入れる。「自分の経験でやるのではなく、専門家の意見を取り入れるようにしています。お金はかかりますが必要なことだと思います」と言う。
寮には自身が週3日、父が週2日、週末はボランティアコーチが1日ずつ泊まり、朝5時に起きて11人分の食事を作り、朝練習(7時15分~8時15分)のあとの選手の栄養補給に尽力。熊本県の覇権を奪取できた原動力は、多くの人の情熱にほかなるまい。
同監督の当面の目標は、九州の一強独占を続ける佐賀・鳥栖工業高校の牙城を崩すこと。出げいこを快く引き受けてくれる同校の小柴健二監督は尊敬する日体大のはるか上の先輩。自身が高校1年生のとき鹿島実業高校に赴任し、合同練習でかわいがられて(鍛えて)もらった恩人でもる。
しかし、「追いつき、追い越さなければ、九州のレスリング界の発展につながらない。鳥栖工を倒さなければ全国でも勝てない」と言う。今年の全九州新人戦で3-4の試合を展開できたことで、「小柴先生に意識してもらえる存在になったかな」と控えめながら話す。
もちろん、海外進出する選手を多く育成することも、現実的な目標だ。今年のU17アジア選手権(ベトナム)のグレコローマン110kg級に坂本鵬榮が出場して5位に入賞したほか、ここ3年間で3選手がU17の国際舞台を経験している(前述)。キッズ・レスリングからの一貫強化での育成が叫ばれる中、高校入学後にレスリングを始めても日本代表になって世界へ飛び出ることは可能であることを証明し、U17世界チャンピオンの育成も視野に入っている。
中期目標としては、ここ2~3年でである程度の全国トップ級の成績をもくろむ。初心者集団でやってきた中で、今年は中学時代の経験者が3人入り、柔道で県の上位だった選手もいる。選手育成の評判が知れ渡ったのか、現在、中学3年生の選手からも県を超えて「ぜひ入部したい」という問い合わせも数件あり、今の1年生が3年生になる2027年度がひとつの目標だ。
父の宮本俊晴さんは玉名工高の監督時代、全国2位を3度経験しているが(前述)、全国一は到達できなかった。個人では、全国優勝や大学へ進んで学生王者になった選手はいても、その後、全日本王者やオリンピック代表選手になった選手はいない(注=オリンピックのコーチとしては、志土地翔大が2016・21年に参加している)。
父親と対決するつもりはないだろうが、熊本県に一時代を築いた指導手腕は目標であり、超えるべき壁。学校対抗戦での全国優勝と、全日本王者やオリンピック代表に駆け上る選手を育成することが、将来の目標だ。
同監督は「レスリング部単独の寮を持ち、心身共に成長できる環境が整っています。経験者はもちろん、初心者からスタートした生徒も日本一や日本代表チームに選出されて夢がかなう環境が整っています」と話し、全国から選手を募集している。
《完》