2025.05.14NEW

【2025年西日本学生春季リーグ戦・特集】2人のコーチの頑張りで「預けていた」王座を奪還…8季ぶり優勝の九州共立大

 周南公立大の天下が続いていた西日本学生レスリング界。その歴史にピリオドが打たれた。新しく王者に君臨したのは、昨年秋季大会は5位だった九州共立大。昨年までの3年間(6季)は3位以内に入っていない。一方で、昨年の西日本学生選手権ではグレコローマンで4選手が優勝しており、「グレコローマンに特化したチームづくりを目指しているのか?」とすら思わせる状況だったが、フリースタイルでも王者を目指した闘いが続いていた。

 藤山慎平監督「うれしい、の一言です。それだけです」と言って、言葉が続かなかった。7季連続で決勝進出を果たした近大相手に、チームスコア3-3にもつれて、最後まで気の抜けない闘いだっただけに、優勝が決まったあとは放心状態といったところ。

▲8季ぶり2度目の優勝を遂げた九州共立大=撮影・保高幸子

 ただ、最後の2階級は「固い(勝てる)と思っていた」とのことで、第1試合の61kg級で伊藤優隼(1年=京都・丹後緑風高卒)が勝利した時点で「勝てる」との思いはあったそうだ。それでも、勝負の世界は何が起こるか分からない。1年生が3人という若いチームなので、個人戦にはない緊張に襲われる団体戦なら、計算通りにいかない可能性は高い。

 最後をグレコローマン学生王者の実績がある長野壮志(4年)が締めてくれるまでは、片時も安心できない時間が続いていた。

▲優勝を決めた長野壮志の胴上げ

優勝の原動力は、現役選手でもある2人のコーチの頑張り

 周南公立大が7季連続優勝を達成し、6季連続で近大との決勝戦だったので、その前のことは関係者でもよく思い出せないのではないか。コロナ禍の沈静化によって1年ぶりに行われた2020年秋季大会で、徳山大(現周南公立大)を破り、創部11年目にして初の栄冠を獲得したのが九州共立大。コロナのぶり返しで2021年春季大会が中止となったあと、同年秋季大会も徳山大と九州共立大が優勝を争い、徳山大が九州共立大にリベンジして11季ぶりに優勝。ここから連覇が始まった。

 すなわち、周南公立大の天下が始まる前は九州共立大が壁であり、それを破って同大学が抜け出した形。近大が安定した実力を見せていたので、リーグ戦では九州共立大の影が薄くなってしまったここ3年間だったが、藤山監督は「周南に預けてある優勝旗を取り戻そうと頑張ってきました」と力をこめた。

▲決勝戦のトップバッターとして貴重な白星を上げた1年生の伊藤優隼=撮影・保高幸子

 優勝の原動力は、2人のコーチが頑張ってくれたこと。国士舘大を卒業し、全日本選手権出場の経験もある大関寛穂選手(65kg級の大関勁心の兄)がこの春、選手兼任でコーチに就任。レベルの高い技術を学ぶことができるようになった。大関コーチは栃木・足利大附高出身で、弟が大学にいる以外、北九州市とはつながりがない。選手活動を続けたい気持ちがあり、その環境を求めて北九州に来た。アルバイト(臨時職員)で生計をたてつつ、選手と指導の両面に力を注いでいる。

 第一線を引退し、仕事の合間にマットに顔を出して指導してくれるOBもありがたいだろうが、現役選手として連日選手とスパーリングできるコーチの存在は貴重な存在。

 卒業3年目で現役ばりばりの荒木瑞生コーチ(昨年の全日本選手権3位)は、九州共立大に入学したあとの個人戦はグレコローマンに専念し、2度も学生王者に輝いたが、リーグ戦では貴重な戦力。昨年の全日本社会人選手権ではフリースタイルで3位に入賞し、あらためてフリースタイルの研究と実践を積み、チームへの還元に力を入れているという。

▲優勝を決め湧き上がった陣営と応援団

まず連覇を目指し、東日本に対抗できる基盤をつくる

 「2人のコーチの存在は大きい。今年は狙っていました」と藤山監督。ここ数年間、我慢の日が続いたが、気持ちは折れておらず、「そのおかげだったと思います」と、王座奪還への変わらない気持ちを強調した。

 同監督は次の目標に「まずは秋季の優勝です」と連覇を掲げた。1年生を3人起用したメンバーは心強い限りで、「鍛えがいのあるチームだと思います」と言う。日体大時代の後輩である周南公立大の守田泰弘監督が優勝の度に口にしていた「ここがゴールではない。東日本の大学を倒すことが目標です」という気持ちは、「同じです」と言うが、「そのためにも、まず秋季に勝つことが必要です」と話し、チーム力を盤石にして東へ対抗できるチームを目指す

 大体大に日体大同期の湯元健一監督が就任。「負けてられません」と語気を強めた。マットの上で激しい火花を散らすことがチーム力をつけることにつながる。九州共立大の王座奪還で、西日本のレスリング界が新たな時代に突入した。

▲マットで闘う選手を応援するチームメート=撮影・保高幸子