故沼尻直氏(茨城県協会元会長)の尽力で 1975年にスタートした全国中学生選手権。第51回大会となった今年から男子グレコローマンが実施され、“初代王者”の一人に地元の上田悠生(62kg級=水戸レスリングスポーツ少年団)が輝いた。
練習場所は、大会のあったアダストリアみとアリーナだから、文字どおり“地元優勝”。茨城県の男子選手としては、2018年以来、7年ぶりのチャンピオン誕生となった。同41kg級で決勝に進んだ弟の上田将生が敗れて優勝を逃したことを見て、「何としても勝ちたい、という気持ちがありました」と言う。
上田は「決勝の相手(大山塁児=佐賀・鳥栖クラブ)には、JOC杯(3月のU15全日本選手権)で負けているんです。ですから、優勝した、という実感がまだないんです」と第一声。その敗戦をばねにこの1ヶ月半、頑張ってきたとのことなので、うれしすぎて現実のものとして受け止められないと言うことか。
3月の試合は、先制され、追いかける展開となって振り切られた黒星。「最初に攻めることができず、後手後手に回ってしまいました」という反省。それを修正するための練習を重ね、この大会の1回戦は1分31秒、準決勝は1分00秒、ともに9-0で圧勝し、練習の成果を十分に出せた。
決勝の“リベンジ戦”も、ローリングと「練習していた」と言うリフト技をさく裂させて1分30秒で7-0とリード。楽勝ムードに持っていけた。しかし、最後のバック投げを決め切れず、とどめを刺せなかったのがよくなかった。
投げ技の失敗が原因で2失点。ピリオド間のインターバルで相手が息を吹き返し、第2ピリオドは7-5とされ、ラスト20秒には一本背負いを受けて7-7の同スコアへ。自身の4点技があったので、このままでも勝者になったが、すぐにバックを取り返して意地を見せ、終了のホイッスルを聞いた。
「7点取って、余裕ができた。それがよくなかった」と、この部分は反省の弁。7-7とされて、すぐにバックを取り返したののは、闘う選手の本能に違いない。「絶対にリベンジするという気持ちが先行していました」という思いが、最後の1点につながった。
藤田龍星・宝星兄弟(ともに日大)の父・藤田征宏さんの運営する猛禽屋クラブでレスリングを始め、全国少年少女選手権は2位が最高。
中学に進んで現在のクラブに移り、上を目指したが、優勝はなかった。グレコローマンを選んだのは、柔道も並行してやっており、投げ技を生かせるという理由から。「グレコローマンは豪快な投げ技があり、見ていて面白い」と感じたことも引かれた理由のひとつ。住居の近い土浦日大高校の練習にも頻繁に参加させてもらって高校生とも練習を積んで、実力をつけて初の全国王者に輝いた。
「この大会でグレコローマンができたのは、ありがたいことです。感謝しています。この優勝を機にどんどん上を目指したいと思います」と話し、グレコローマン採用の恩恵を受けた選手の一人と言える。
水戸市レスリングスポーツ少年団の阿部宏隆監督(2023年ビーチ全日本王者)は、「よくやった」とグレコローマンに活路を見い出しての快挙にうれしそう。一方で、先月末のJOCジュニアオリンピックU17-65kg級では2回戦で高校生相手に完敗している事実を指摘し、「次の大会でも優勝できるように頑張ってもらいたい」と言う。
同監督の父でチームの阿部敏明代表は、3月のU15全日本選手権は「グレコローマンのことをよく分かってない中での試合だったっと思う。実際に試合をやって負け、そのあとグレコローマンの練習をしっかりこなした成果だったでしょう」と分析。同時に、中学のグレコローマンが始まったばかりなので「まだ本当に強い選手はいないと思う。グレコローマンをしっかりやる選手が増えていくので、レベルは上がっていく。次からも同じように勝てるわけではない」と話し、選手数も増えるであろう今後の踏ん張りを期待した。