オリンピック専門サイト「Inside the Games」やロシア・ダゲスタン共和国レスリング協会のウェブサイトは、世界V5のスタンカ・ズラテバが協会会長に就任したブルガリアで、同会長の「帰化選手のいない代表チームをつくりたい」という方針のもと、内紛が起きていることを報じた。
ズラテバ会長となったブルガリア協会は、4月3日の理事会で「選手権、トーナメント、キャンプに参加する代表チームでは、国の公用語であるブルガリア語で話すこと」「 メディアへの声明も含め、すべての公式声明はブルガリア語で行われ、ブルガリア共和国、ブルガリア共和国の公式機関、ブルガリア・レスリング連盟、ブルガリア共和国の国章、国旗、国歌に対する態度のみを表明するものでなければならない」といった倫理規定を定めた。
「Inside the Games」は、ズラテバ会長の「私たちはブルガリアにいます。基本的に、たとえ基礎レベルであってもブルガリア語を話してほしいと思っています」とのコメントを紹介。昨年のパリ・オリンピックの男子フリースタイル86kg級で優勝したマゴメド・ラマザノフ(元ロシア)が、大会後のインタビューでロシア語を使ったことなどに対する対応。
さらに、男子グレコローマンのソスラン・ファルニエフ・ヘッドコーチ(ロシア~ウズベキスタン)を解任。5月1日までに、「帰化選手のいない代表チームの活性化を実現するための戦略を提案する」とした。ブルガリア語以外の言語でインタビューに応じることを禁止したのは、その一環。
この方針への反発も起きた。解任されたファルニエフ・コーチは、様々な経歴を持つレスラーが将来を危ぶまれていることを指摘し、失望を表明。男子グレコローマンのコーチング・スタッフは、同氏の解任に「断固反対」を表明する公開書簡を発表した。
パリ・オリンピックの男子グレコローマン87kg級で優勝したセメン・ノビコフ(ウクライナ~ブルガリア)は「ウクライナ語、英語、あるいはロシア語を話したいなら、そうするべきだ。私たちはレスラーであり、レスリングをやり、結果を出すことが大事。些細なことを問題にするべきではない。私たちはブルガリアを代表し、ブルガリアの国旗を掲げたい」とコメントした。
純粋なブルガリア人であり今月の欧州選手権・男子グレローマン97kg級を制したキリル・ミロフも、成功した帰化選手が除外される可能性に懸念を表し、「オリンピック金メダルを含む彼らの貢献を無視するのは誤り。これらの功績はブルガリアのスポーツ史の一部である」と主張している。
ズラテバ会長は、女子代表チームのヘッドコーチに自身を育てたシメオン・ステレフ氏(1983年世界王者)を、男子フリースタイル代表チームにステレフ氏の教え子のラドスラフ・ベリコフ氏(2006年世界王者=2018年に高崎市で行われた女子ワールドカップで、中国のステレフ監督とともにコーチで来日)を就任させるなど、“ズラテバ色満開”の人事を敢行。新たなブルガリア・レスリング界の確立を目指している。
ズラテバ会長は、は3月11日の会長選挙で現場の支持を得て当選(関連記事)。同国協会初の女性会長となった。強権発動とも言える政権運営は、吉と出るか、凶と出るか。