2025.02.28

【特集】オリンピック金メダリストが参加して第4回「MIX」…レスリングの普及発展を目指す和歌山県レスリング協会の試み

▲第4回を迎えた「MIX」に参加した選手・関係者

《熱戦写真集》 《表彰式写真集》

 和歌山県レスリング協会がレスリングの普及発展と生涯スポーツへの道を目指し、4年前にスタートさせた「MIX」が2月23日、和歌山市の和歌山ビッグウエーブで行われ、パリ・オリンピック金メダリストの清岡幸大郎ら三恵海運の選手もゲスト参加し、華々しく開催された。

 男女混合団体戦という日本にない大会のほか、照明や音楽付きというショーアップがあり、試合の途中には和歌山で有名な「よさこい祭り」の演舞が披露された。最後は選手も加わって踊り、参加者が一致団結して盛り上がりを見せた。

▲午前中の予選は3面マットで実施。マットステージが設置される豪華な大会

 谷口和樹・実行委員長(県協会会長代行=県議会議員)は開会式でのあいさつで、「レスリングの場合、現役(第一線)を退くとレスリングをやる機会がなくなる。そんな人たちにレスリングに接する機会をつくりたい」と、大会をスタートさせた理由を説明。チームによっては現役の学生選手もいるが、かつて世界選手権代表や国体王者など華々しい実績を持っている名選手の姿も。

 ときに選手が観客を盛り上げるパフォーマンスをやったり、セコンドから観客のみならず相手陣営をも笑わせる言葉もとぶ。プロレスのラリアートのような形でテークダウンが決まると、場内アナウンサーが「ラリアートで4点を奪いました」とアナウンスして会場が爆笑に包まれるなど、真剣勝負の中にエンタメの要素も十分。「レスリングを楽しむための大会」というもくろみは当たっていると言えよう。

▲パリ・オリンピック金メダルの清岡幸大郎(左端)ら三恵海運の選手・スタッフが参加(参加予定だった日下尚は体調不良で欠席)

厳しいスポーツだが、楽しめるスポーツであってもいい

 同委員長は「勝つことにすべてを捧げる過酷な競技レスリングのその先に、心からみんなで楽しめるレスリングがあっていい。その上で、レスラーにはずっとマットのそばにいてほしい」と話す。

 レスリングのシングレットにこだわらず、ラッシュガードなど体にフィットしているウェアを上下とも可としているのも、参加しやすくするための方策。試合に出るため、わざわざシングレットを購入しなければならないのは、壁のひとつとなる。男女を問わず、年齢を重ねると体の線がはっきり出るシングレットに抵抗が出てくる人もいるとのこと。すそ野を広げるためには、正式ルールにこだわる必要はない。

 男女混合の団体戦にしたのは、数年前までインドで行われていたプロ・リーグを模倣したと言う。「すごい盛り上がりと聞いていました」と話し、オリンピックの柔道で行われている男女混合の団体戦の導入に踏み切った。「この大会に参加するには、女子を入れないとならない、となれば、女子選手を探そう、となります。どんな形でも、女子の普及発展につながればいいと思います」と話す。

▲大会運営に尽力した谷口和樹・実行委員長(県協会会長代行)。上の動画は選手宣誓に割り込んでパフォーマンスを見せた山中良一選手

 谷口委員長はレスリング経験者ではなく、ご子息がレスリングをやっていたので、ここまで肩入れすることになったそうだが、「逆のケースもあるはず」とも言う。つまり、親が何らかの形でレスリングを続けることで、子供を会場に連れてきてレスリングに接する機会ができる。マットが普通の光景になり、「そのうちにレスリングをやるケースがあるはず」と言う。

社会人になってからレスリングを始めた選手の部門を新設

 指導者の子でレスリングをやる選手が多いのは、小さな頃からレスリングに接することが多いからと分析。少子化による競技人口の減少を食い止めるひとつの方法として、社会人になってからも、気楽な気持ちでレスリングができる環境をつくり、子供を巻き込むことでレスリングに接する機会を増やすことを挙げる。

 大会が年々盛り上がってきたことで、今年から、社会人になってからレスリングを始めた選手を対象とした部門をスタートさせた。第1回大会から参加しているWrestling Platform(大阪=関連記事)の有元伸吾代表(近大OB)が、初心者を対象に「All or Nothing」と銘打ったイベントを開催しており、有元代表の提唱を受けてこの大会でも実施することになった。

 「予想外の6チームも集まった」(谷口実行委員長)とのことで、レスリングが社会人に予想外に広まっている状況を実感したもようだ。

▲2009年全日本王者で、2010年アジア大会2位の小田裕之さん(国士舘大OB)も出場

 かつて世界選手権やワールドカップのマットに上がっていた坂上嘉津季さん(至学館大OG)は、2019年全日本選抜選手権以来、約5年8か月ぶりのマット。2児の母親になっての復帰に息は上がりっぱなしで、「すごくきついスポーツということを、あらためて感じました。これだけの厳しさとよく闘っていたな、と思います」と笑う。

 マットに上がったときに、世界選手権などで感じた気持ちが脳裏をよぎったと言うが、全国社会人オープン選手権や全日本マスターズ選手権への出場は「ない、ない!」と語気を強めた。

 一方で、「楽しさもあるスポーツ」ということも口にし、「社会人になってから始めた選手が出られる大会というものいいですね」と話した。

▲第1ピリオドが終わり、ばてばての坂上嘉津季さんに愛息(顔を加工しています)が駆け寄るアットホームな大会

和歌山県の盛り上げる試みが全国に広まるか

 大会の運営に尽力してきた和歌山県協会の加賀谷庸一朗理事(国士舘大OB)は「今回で4回目です。トライ・アンド・エラーの繰り返しというか、毎回、改善すべき点が見つかります」と、発展途上のイベントであることを強調。

 具体的には、「時間の長さ」に改善の余地があると感じている。選手は午前8時の計量から最後(午後7時半)まで長時間の拘束になり、長すぎると感じている。和歌山県以外からも来ているチームもあるので、帰宅を考えると、もう少し早めに終わる必要があると言う。

 マットステージは、2015年和歌山国体の柔道で使用したレガシー(遺産)。体育館の持ち物なので、お金をかけずに豪華さを出せているが、照明や音響などには、やはり経費が必要。「豪華さ=経費が必要」は避けて通れない課題だが、幸い、三恵海運大塔交通社の2つの企業の支援を受けていることと、協会役員の熱意が、大会の盛り上げに一役をかっていることも口にする。

 館内のビジョンに上映される“盛り上げ動画”は、運営スタッフの手作り。業者に頼めば、それだけで多額の経費がかかるが、現在はスマホで撮影し、アプリを使ってプロ顔負けの動画を作ることができる時代。プロ興行ではないから、これで十分。地方でここまで盛り上げに力をかけているところは、まだ少ないだろう。

▲館内にはビジョンを設置。映し出されるプロモーション動画は手作りで経費を工夫

 加賀谷理事は「アメリカは、地方の小さな大会でも盛り上げがすごいんですよ。和歌山県の試みがきっかけとなって全国に広まっていけば、レスリングの発展につながると思います」と話し、レスリングについて回る「地味」というイメージを払拭し、明るいレスリング・イベントを目指したい気持ちを話した。

《関連記事=「A WRTLER」》【加賀谷庸一朗】「面白い」を追求する人生。他とは違った角度からレスリングを盛り上げる。

《試合結果》
【社会人の部】[1]MIX三重県支部、[2]イモニーズ、[3]平野クラブ
【中学生の部】[1]神戸高塚、[2]猪名川レスリングクラブA、[3]猪名川レスリングクラブB
【All or Nothingの部】[1]Wrestling Platform2、[2]Wrestling Platform1、[3]四日市ジュニアレスリングチーム