2013.02.21

福田富昭会長と吉田沙保里選手が日本記者クラブでレスリング存続の訴え

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

日本協会の福田富昭会長と女子55kg級の吉田沙保里選手(ALSOK)は2月20日、新聞社やテレビ局で構成される日本記者クラブの要請に応じ、都内の日本プレスセンタービルで記者会見し、2020年五輪でのレスリングの実施をあらためて訴えた。(右写真会見動画

 スポーツの話題を超えて社会問題にすらなっているだけに、会見には100人を超える報道陣が集まり、シンガポールのテレビ局の出席もあった。

 福田会長は15~17日にタイ・プーケットで行われた国際レスリング連盟(FILA)の理事会の内容と決議事項を報告。「連盟内が不一致ではダメ。理事会が一致団結しIOC(国際オリンピック連盟)に対抗することを確認した」と話し、IOCに除外勧告の明確な理由を聞き、「ひとつひとつ、ていねいに応えていきたい」と、IOCの要望に対応していく気持ちを表した。

 自身とトルコのマリア・ロディカ理事(女性)が五輪に存続させるための委員会の代表となり、この問題に積極的に取り組むことも報告され、2020年五輪誘致を争う2ヶ国が協力してレスリングを守ることを説明した。

 吉田選手は「(12日の)練習後にマスコミの人からの電話で知り、びくりした。協会のホームページでIOCの理事会があることは知っていたが、まさかレスリングがはずされるとは思っていなかった。2020年に東京でオリンピックがあるなら出たいと思っていただけにショックで、時間が経つにつれてショックが大きくなっていった」と、ニュースを受けた直後の感想。

 「レスリングをやっている後輩や子供たちの夢が断たれると思うと心が痛む」とし、「子供たちの夢を壊さないよう継続を訴えていきたい」と話した。

 このあと、下記の通り質疑応答が行われた。


 ――今回の問題で世論がかなり盛り上がっているが、IOC委員の気持ちに訴えかけないと、(除外撤回は)かなり難しいと思う。IOC委員にどう訴えていきますか?

 福田 まず歴史の重さです。次に、小さい子供たちや女性でもできるスポーツであることを訴えたい。女子は2004年アテネ大会から採用され、歴史が浅い。女性でもできるスポーツだということをアピールしたい。レスリングは過去に国際貢献を果たしています。イラン・イラク戦争の時にも両国間の選手が闘っており、国際交流に役立っている。過去のオリンピックのメダリストがたくさんの社会貢献をしてきていることなどを訴えたい。現在、180の国と地域が加盟している。広く、多くの国がやっていることも訴えたい。

 ――吉田選手は5月のプレゼンテーションに臨むにあたり、他の競技にはないレスリングのよさとして、何をアピールしますか?

 吉田 レスリングは伝統あるスポーツであり、夢を持って頑張っている選手がたくさんいることです。また国際交流が盛んに行われています。日本に世界各国の選手来て合宿をすることもあり、レスリングを通じて世界の仲間が増えていくことを訴えていきたい。

――FILA理事会ではルール改正が議題になったと聞いています。改正する予定のルールは、IOCからの要望にこたえられるものでしょうか。

 福田 レスリングのルールで分かりにくいという意見が、ロンドン・オリンピックのあとにも出てきた。ルール改正委員会をつくり、ブルガリアで会合を開いて検討し、各国からいろんな意見が出てきた。特にグレコローマンのパーテール・ポジションからの攻撃の意味が分からないという声が多く、これをどう解決するかがひとつ。あと、どちらもポイントが取れなかった時にボールを引いて抽選するルールがあるが、抽選で攻撃が決まるルールと、グレコローマンでボールピックアップで勝負が決まることをやめようとなった。理事会でおおまかに承認され、審判員会で詳細を煮詰め、次の理事会で正式に決まると思う。

 ――IOCの理事会がレスリングを除外勧告したことの理由は発表されていませんが、どうしてとお考えになっていますか?

 福田 IOCからは明確な理由を与えられていないが、その後、事務局同士で連絡し、データは集めている。IOCはオリンピックが終わるごとにデータを集めており、その競技の加盟国数、参加国数、観客の数、チケットの販売数、各国の放映権料、スポンサーの収入や数など、いろいろなデータを調べている。レスリングは26競技の中で一番下ではない。正確な順番は不明だが、20番前後にいると聞いている。一番下ではないが、どの程度の評価なのかは分からない。そうしたデータを参考にIOC理事会でのプレゼンテーションをやりたい。

 ――20番前後にいたのに落ち、同じくらいの位置と思われるテコンドーが外れなかった。五輪競技に残るためには政治的な力も必要と思われる。政治力を使う予定は?

 福田 昨日、国会で谷岡郁子さん、参議院議員であり、吉田選手の出身の至学館大の学長ですが(愛知県レスリング協会会長)、安部晋三総理大臣に「レスリングをオリンピックに存続させるため政府としても働きかけてほしい」と訴えた。しかし、東京五輪の招致には協力できるが、他の候補競技もあり、レスリングだけに肩入れすることはできないという回答だった。その通りでしょう。FILAのIOC委員や理事に対するロビー活動が不足していたことは反省材料だ。東京五輪招致のことでも、こうしたことはしっかりやっていかなければならないと痛感した。

 ――世界との連帯が必要と思われる。(理事会でともに委員会に選出された)トルコ以外には、具体的にどの国と連帯していく予定でしょうか。

 福田 FILAに加盟している国全体でIOCに訴えていくつもりだ。FILAの理事会では、日本レスリング協会としてこうあるべきだという提案を英訳して全出席者に配った。FILAとしての一致団結、次に各国のレスリング協会会長、できればオリンピック委員会会長がIOC会長宛にレスリングを除外しないよう書簡を出すこと、3番目は自分の国にIOC委員がいればその委員にレスリングを除外しないよう訴えることだ。5月のIOC理事会(ロシア・アンクトペテルブルグ)には、これまでオリンピックで活躍したメダリストに集合してもらい、IOC理事に対してロビー活動をしたり、集会をやってアピールしようという提案もした。ロシアは、ロシアのメダリストを全員集めたいと言っている。アレクサンダー・カレリンも来てくれると聞いている。8つの候補競技の中でオリンピックを経験しているのは野球とソフトボールだけ。レスリングは歴史があるので、たくさんのメダリストがいる。そういう強みを利用したアピールをしたい。その理事会でIOC総会にかける競技に選ばれなければならない。5月以外にもIOCの会議がいくつか予定されているので、そういうところに出かけて行ってレスリングの復帰を訴えていきたい。

 ――除外が濃厚と言われた近代五種は、サマランチ・ジュニアIOC理事(国際近代五種連盟副会長)のロビー活動が有効だったとされている、一方、レスリングはIOC理事がおらず、ロビー活動がなかったわけですが、今後、IOCからの情報を取るための方策は?

 福田 FILAの役員にIOC理事がおらず、IOCからの情報が入ってこなかった。国際競技連盟の中には、IOC理事を入れる団体もある。先ほど言いませんでしたが、私の提案書にはFILAの中にIOCの理事や委員を入れるという提案もある。例えばIOC委員でパキスタンのシャヒド・アリ氏はパキスタン・レスリング協会の会長をやった人(注=自身はレスリングの経験なし)であり、韓国の三星のリー・クンヒ会長は韓国レスリング協会の会長(同)。こうした人をFILAの特別枠に入れるとかの提案をした。また、FILAがIOC基準を順守するように、女性委員会をつくり、選手委員会をつくった。IOC基準に沿った組織にしていかなければならないと思う。FILAに改革していかなければならない点は多い。

 ――FILAの会長選挙が4月に行われるという情報があります。東京五輪招致の活動で大変とは思いますが、福田会長自身が立つ可能性は? 

 福田 東京五輪招致活動も、レスリングの五輪復帰も、お願いする相手は約110人のIOC委員だ。東京五輪招致と同時にレスリングの復帰もお願いしていく。FILA会長は、当初は9月の世界選手権期間中に行われる総会で決める予定だが、4月に臨時総会をやって決めようという声もある。まだ正式には決まっていない。やるとなれば、ネナド・ラロビッチ会長代行のほかに立候補者がいる可能性もある。前の会長が出てくることもある。そうなれば選挙になるだろう。立候補者がいなければ、ネナド・ラロビッチ会長代行が正式な会長になるだろう。4月に総会をやるかどうかはまだ正式に決まっていない。私は(会長選には)立つ予定はありません」