2025.01.29

【2024年度全国少年少女選抜選手権・特集】キッズ・レスリングに新ルール導入、矢動丸靖審判委員長(太田章レスリングクラブ出身)に聞く

 全国少年少女レスリング連盟の公式ルールが変更された。テークダウンが2点、場外は1点、延長戦なしなど、チャレンジ(ビデオチェック要求)導入など世界レスリング連盟(UWW)のルールに近づけた内容。今年1月1日に交付され、同25~26日の全国少年少女選抜選手権(東京・板橋区)でテスト実施。4月から正式に採用される。

 同選手権を終わり、大会の矢動丸靖審判長(太田章レスリングクラブ出身)に感想を聞いた。(導入された新ルール=全国少年少女連盟ホームページより)

▲開会式の前に行われた監督会議で新ルールを説明。多くの質問がとんだ


4点技の導入で、より積極的な試合を期待

--初めに、新ルール採用の理由や経緯をお聞きかせください。

矢動丸 大きく2つあります。ひとつは、延長戦の問題です。以前は同点で制限時間を終了した場合、最大で2分間の延長戦をやっていて、最大6分間、闘っていたわけです。これはキッズ選手に負担がかかるので、まず延長戦の廃止となりました。もうひとつは、小学校から中学校に進むにあたり、ルールが大きく変わることで、レスリングをやめてしまう選手がいるという話を耳にしたことです。卒業後も続けてもらうために、中学生のルールに合わせましょう、の2つが大きな理由です。

--UWWのルールに近づけよう、という理由があるともお聞きしています。

矢動丸 その意味もあります。根本にUWWルールがあり、その中で小学生のルールがあるべきだと思います。持ち上げただけで4点など安全面を考慮したルールを導入しています。4点技の導入で、より攻撃している選手、積極的な選手が有利になるルールだと思います。

▲安全面を考慮し、持ち上げただけで4点獲得

--UWWルールにある「アクティビティータイム」(消極的と判断された選手が30秒間でポイントを取れなければ相手に1点が与えられる)は実施していないんですね。

矢動丸 キッズのルールはランニングタイム(場外などの場合でも時間は止めない)になっています。そのルール下では「アクティビティータイム」の導入は難しい、という理由によります。ただ、第1ピリオドの1分経過時点で0-0だった場合、どちらかの選手に対し、ピリオド内でポイントを取れない場合は相手に1点、という「アクティビティータイム」に近いルールは導入しています。

チャレンジ導入で選手、セコンド、審判のストレスを解消

--フォールは「2秒押さえ込む」というルールは変わっていませんね(UWWルールは1秒)。

矢動丸 両肩をついたことで(レフェリーが)マットをたたき、「ついているよ、頑張れ」と警告し、それでもついたままの場合にフォール、という発想からのルールでした。選手に頑張らせるために、その部分は変更しませんでした。

--最終日だけでしたが、チャレンジが導入されました。これについてはいかがでしょうか。

矢動丸 キッズの試合は以前に比べるとレベルが格段に上がっています。指導する監督やコーチは、中学生選手を教えているケースも多く、中学生が使うような技も数多く展開されます。審判もビデオがないと判定が大変、という部分がありました。チャレンジ導入は、選手、セコンド、審判のストレスを解消することに役立つと思います。

▲チャレンジによるビデオチェック。右端が矢動丸靖審判委員長

--今大会はテストケースということで最終日だけの実施でしたが、導入された感想はいかがでしょうか?

矢動丸 最終日(準決勝、決勝)、チャレンジは25回あって、成功(判定が変わった)が10回、失敗が15回でした。いわゆる「やけくそチャレンジ」(無駄だと思いながらのチャレンジ)はあまりなく、皆さん、ここぞというときにチャレンジをしたという感じです。審判にとっても、ビデオで正確な判定ができますので、その点では導入してよかったと思います。正式に導入されることを期待します。

審判養成にも役立つ“UWWルール”導入

--試合進行の時間の面はいかがでしたか。

矢動丸 チャレンジ導入によって終了時間が大幅に延びた、ということはなかったです。午後3時終了を予定していて、ほぼその時刻で終わりました。

--新ルールは、UWW審判の養成という意味でもプラスではないでしょうか。これまでは、キッズの審判はできるが、UWWルールの審判は自信がない、として踏み込まなかった審判もいたかと思います。女性審判を増やさなければならない状況下で、追い風になるような気がします。

矢動丸 それはあると思います。UWWルールはかなり浸透していると感じました。キッズの審判員の方もUWWルールは勉強していたようで、今大会では大きなミスはなかったかと思います。

--新ルールをテストしてみて、メリットの方が多かった、と考えていいでしょうか。

矢動丸 私はそう思います。1月1日付けで公布しましたが、ブロック大会などテストしてもらい、もう一度見直して、4月1日から正式に施行と考えています。

▲全試合終了後に行われた審判員のミーティング