2025年全日本マスターズ選手権に、昨年の天野雅之さん(元全日本王者)に続く“ビッグネーム”が参入してきた。オリンピック3度連続出場、全日本選手権12度優勝など日本レスリング界を支えてきた高谷惣亮さん(拓大職)。4選手がエントリーしたDivisionA(35~40歳)88kg級に出場し、1回戦を不戦勝のあと、決勝で昨年の世界ベテランズ選手権3位の奈良部嘉明さん(筑西広域消防本部)を10-0のテクニカルスペリオリティで破って実力を見せつけた。
1回戦で拓大の1年先輩となる岡太一さん(鳥取県レスリング協会=グレコローマンで全日本選手権4度優勝など)と対戦予定だったが、岡さんが棄権。そのため、計量からじっくり体を休ませての決勝戦。満を持してマットへ上がり、2008年全日本大学選手権の決勝で勝った相手との約16年2ヶ月ぶりの対戦を制した。
高谷さんは出場した理由を、「パリ・オリンピックでメダルを獲得した選手が地方へ指導に行くなど普及に頑張っている。自分でも何かをやりたかった」と、レスリングの普及・発展に貢献したい気持ちからと説明。子供がレスリングをやり、そのうちに保護者もやりたくなったというケースも耳にしており、マスターズの盛り上がりによって、そうした保護者が実際にマットに上がるケースも出てくると予想。
生涯スポーツとしてのマスターズ・レスリングの認識が高まり、盛り上がれば「レスリングの地位が上がり、普及につながる」と話す。若い世代だけではなく、上の世代も盛り上がることがレスリングの発展につながることを力説。自分を「ビッグネーム」とは言わなかったが、名前の通っている選手が出ることで注目が出れば、「価値があることだと思います」と言う。
世界ベテランズ選手権の出場と優勝という目標もある。オリンピックと世界選手権を通じて「2位」が最高成績(2014年世界選手権)。「世界一」という称号には手が届いていないので、「世界チャンピオンに一度はなっておきたい」という気持ちがある。
今年の世界ベテランズ選手権(10月、ハンガリー)への出場を100パーセント決めているわけではないが、「行ける状況になったら、今年から挑みたい」と言う。
昨年12月の天皇杯全日本選手権では、優勝した選手に惜敗しての3位。こちらの方も挑み続ける気持ちは十分。「同じレスリングですから、変わることは何もないです。全日本選手権と同じウォーミングアップ、同じ気持ちの作り方をしました」と言う。唯一、戸惑うことといえば、試合時間がシニアは3分2ピリオドであるのに対し、こちらは2分2ピリオド。「(相手の動きを見て)待つことができないですね」と話し、より早い展開が必要と感じたそうだ。
二刀流のチャレンジに加え、拓大の指導、大学院での勉強と、多分野での“闘い”を抱える2025年。弟でパリ・オリンピック銀メダルの高谷大地(自衛隊)はレスリングの宣伝・普及のために力を入れているが、兄の情熱も衰えてはいない。