※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子)
土浦日大の選手。右端が天谷監督
個人戦でも120kg級の加藤耀太が準優勝し、団体・個人ともに全国への切符を獲得。同校のOBであり元全日本王者の天谷満博監督は「本当に久々。選手がよく頑張りました」と振り返った。
■最近は霞ヶ浦と鹿島学園の壁に阻まれる
土浦日大は小橋主典・前監督のもと、1984年ロサンゼルス五輪金メダリストの富山英明・日本協会前強化委員長(日大教)や、1988年ソウル五輪金メダリストの小林孝至さんらを輩出した高校。富山・前強化委員長を擁した1975年には全国高校選抜大会とインターハイの学校対抗戦を制覇し、小林さんを擁した1980・81年にはインターハイ学校対抗戦を連覇。全国に名をとどろかせた強豪チームだった。
天谷監督は小橋氏の後継者として同校に赴任した。監督として全国の舞台を踏むのは2度目だが、前回は小橋氏の指導で育った選手たちの活躍で全国行きを決めたチームだった。今回は事実上“初の全国の舞台”となる。
この12年間、天谷監督とって試練の日々だった。「一番苦労したことは人数がそろわなかったことです」。私立校でスポーツ推薦枠はあったものの、「重量級に選手が偏ってしまったり、またはその反対になったり」と、7階級にバランスよく選手をそろえることが難しかったようだ。近年は団体を組むことすらかなわず、「団体戦に出場したことも久しぶりでした」と話す。
茨城県には、高校レスリング界の雄で全国優勝の常連の霞ヶ浦や、2010年にインターハイ王者を輩出した鹿島学園がある。インターハイに出るにはこの両校に県予選で勝たなければならず、全国高校選抜大会の予選となる関東選抜大会に出場するためには、県予選で2位に入る必要がある。全国への道は険しい状況だ。
12年ぶりに全国高校選抜大会の学校対抗戦で「土浦日大」のシングレットが見られる
だが、古豪校のプライドが天谷監督を奮い立たせた。「OBが多く、多くの方から『また強くしてくれ』と声をかけられます」と言う。ここ数年、推薦で毎年1人を確保し、キッズ出身や柔道転向者の入部が相次いだ。55kg級と60kg級は欠員だが、5階級に1人ずつ選手がそろった。
―今回がチャンスだ―。その思いに拍車をかけたのは、学校対抗戦の組み合わせを見て、初戦の相手が全国未出場の高校だと分かった時だ。「全国に行けるかもしれない」とチーム全体の気持ちが盛り上がり、徹底的に相手の研究をして本場に臨んだという。それが功を奏し、4-3で競り勝って全国への道を確保した。
天谷監督は「私自身、高校、大学(早大)と、個人では勝つけど団体では勝てないという環境でやってきた。その経験が、少人数の環境でも強くなろうという点に通じることがあります」と話す。大切なことは、その環境にあわせた練習の工夫をすることだという。
「今までは技術練習に偏りすぎていた部分があったので、今年の年始練習では早い打ち込みのメニューを取り入れて、技を頭ではなく体で覚えるようにさせてみました」。効果てき面だったようだ。
12年ぶりの全国の舞台まであと2か月弱、天谷監督は「一生懸命頑張ります」ときっぱり答えた。古豪・土浦日大が復活の第1歩を踏み出した。