2013.01.22

【特集】五輪王者挑戦の日を夢見る若手成長株…男子フリースタイル66kg級・砂川航祐(日体大)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=樋口郁夫)

 オリンピックで米満達弘(自衛隊)が頂点を極めた男子フリースタイル66kg級。勝負の世界の掟(おきて)は、米満の2016年リオデジャネイロ五輪優勝どころか出場すら保証していない。「米満を破れば自分がオリンピック・チャンピオンになれる」とばかりに、新しい戦力が次々に台頭してくるはずだ。

 その筆頭とも言えるのが、3年生で全日本学生選手権(インカレ)を制した砂川航祐(日体大=大阪・吹田市民教室~茨城・霞ヶ浦高卒)。ユニバーシアード代表を逃すなど、まだ安定性に欠ける面はあるが、新年度の日体大主将として今年を「飛躍の1年」と位置づける。

■ベストコンディションをつくり、3年生で学生王者へ

 1月12日から東京・味の素トレーニングセンターで行われた全日本&学生選抜の合宿で、砂川の姿があった。3年生で学生王者になるくらいの選手だから、これまでにも全日本合宿に呼ばれたり、通いで参加したこともあると思われるが、意外にも全日本合宿への参加はこれが初めて。ここ1年で急速に力を伸ばしたことがうかがえる。

初めての全日本合宿は、「大学の練習は自分より下の選手が何人もいますが、全日本ではほとんどが自分より上の選手。すごくいい環境だと思います」と、厳しさを肌で感じる経験となった。日体大の66kg級もレベルは高く、学生王者であっても全日本大学選手権のエントリーすらされなかった。強豪先輩がいたためだが、全日本合宿は上下の階級を含めてそんなレベルの選手がごろごろいる中での練習だ。自然に気合いが入る。

 昨年夏の全日本学生選手権は「最高に調子がよく、脚がよく動いた。保坂(健=早大)が棄権してくれ、準決勝で岩渕(尚=拓大)と当たるまでは強豪と呼べる選手がいなかった」と、体調のよさのほかに組み合わせにも恵まれたことを強調する。

 確かに大学の先輩の井上貴尋と小石原拓馬、2010年世界ジュニア選手権2位の田中幸太郎(早大)が反対のブロックといういい組み合わせだったが、110選手もが参加する階級では、くじ運だけで優勝できるものではない。そこを勝ち上がってきた選手(安藤達也=国士舘大)を破ったのだから胸を張っていい優勝だ。

■学生王者から一転して失速した昨年終盤

 一方で、必ずしも「優勝=実力ナンバーワン」ではない。1ヶ月後の国体では田中に「普通に負けてしまいまして…(第3ピリオド、フォール負け)」。学生王者の威光などまったくなかった現実に、自分の実力を痛感した。

先輩の井上と小石原はともに田中に勝ったことがある。全日本大学選手権にエントリーされなかったのは「実力通りだと思います」。気持ちを入れ直して大学王者に輝いた田中とのユニバーシアード日本代表決定プレーオフに挑んだが、ここでも黒星。全日本選手権では初戦でインカレ決勝で勝った安藤に敗れるなど、昨年は8月を頂点として終盤は下降線をたどってしまった。

 「一番の原因は気持ちですね」。国体でつまずいたことが一因となって結果を出すことができなくなった。「インカレでの心身の盛り上がりを続けることができていれば、もっといい成績を出せたと思います」。ベストコンディションなら結果を出せる実力がついていることは間違いない。次の段階は、どんな大会でもベストで臨めるコンディションづくりと、ベストでなくても勝てるだけの実力の養成だ。

 気持ちを立て直す好機が、27日からの学生選抜の米国遠征(「デーブ・シュルツ国際大会」出場)。海外の大会に出場するのは初めてのこと(高校時代の日韓対抗戦は除く)。「自分のレスリングがどこまで通じるのか楽しみです」と気持ちが盛り上がってきた。

■日体大主将の責任感が実力をアップさせる

 日体大の主将に推薦されたことも気持ちの高まりにつながっている。「団体戦の三冠(東日本学生リーグ戦、全日本大学選手権、全日本大学グレコローマン選手権)、今年こそは達成したいです」。主将としての重責に加え、必然的に試合数が多くなってコンディションつくりは大変になるが、五輪に出場する選手はだれもが通ってきた道。この試練を乗り越えなければ栄光はやってこない。

高校~大学の同期の森下史崇は、世界ジュニア選手権3位、全日本選手権優勝、ユニバーシアード代表と、砂川の一歩先を進む成績を残している。「悔しいし、置いてきぼりにされた気持ちはあります」と言う。これも刺激材料。

 その森下は、練習が終わって選手が引き揚げていったあとも一人だけ道場に残り、砂川のこの取材が終わるのを待っていた。あたかも、「(全日本王者などに)来るのを待っているよ」という気持ちを表しているかのように。

 もちろん、砂川の見据える目標は米満への挑戦だ。全日本合宿に参加したことがないため、五輪王者の強さは肌で知らない。「今はまったく手が届かないだろう、ということは分かっています」と苦笑いしながら、「結果はともかく、今後のためにも闘ってみたいです」と、その日を心待ちにしている。

 日体大主将の責任感と同期の“ライバル”からの刺激により、吹田~霞ヶ浦~日体大という超エリートコースを歩む逸材が飛躍する-。