※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子)
2014年長崎国体のために再スタート! 全日本選手権の男子フリースタイル60kg級に、2010年全日本3位の松本桂(長崎・島原特別支援学校教=右写真)が「全国社会人オープン選手権優勝」の肩書で挑む。
早大出身の松本は、3年時(2010年)に東日本学生リーグ戦で早大62年ぶりの優勝に主将としてチームをけん引。古豪復活を支えたメンバーだった。この間に行われた2010年の全日本選手権では、3回戦で2009年世界5位の前田翔吾(当時ニューギン)を2-1で下して表彰台に登るなど、結果を出していた。
■2014年国体での優勝を目指し、奮戦していたが…
卒業後は地元に戻り、2014年の長崎国体の強化メンバーとして、教員をしながらレスリングを活動を続けている。「ふだんは仕事の後に、母校の島原工業高校やインターハイでもベスト4に入る島原高校に行って、高校生を指導しながら自分の練習を行っています」。
早大が2連覇した2011年東日本学生リーグ戦で闘う松本
昨年は全日本選手権には出場できたが、学生相手に初戦敗退を喫し、今年6月の全日本選抜選手権の出場資格を取ることはできなかった。今年7月の全日本社会人選手権は66kg級に出場し、大学の後輩の石田智嗣(警視庁警察学校=2011年全日本選手権60kg級2位)に3回戦で敗れてベスト8。またしても全日本選手権の出場資格に一歩届かなかった。
この時は、全日本選手権の資格を取り損ねたことに悔しさはあったが、危機感を感じるほどではなかった。石田は後輩とはいえ、警視庁の第六機動隊へ進む“職業プロ”の選手だったからだ。
■大学1年生相手の敗北に一念発起
2010年全日本選手権。世界3位(高塚紀行)、五輪3位(湯元健一)、アジア大会2位(小田裕之)と肩を並べた松本(右端)
「交通費や時間などがかかるけれども、2年後の地元の国体で優勝できるようにしたい。時間はあるようで、あまりないのです。高校生との練習では、タックルの練習にはなるけど、失敗したときの処理などギリギリの練習ができないことが分かりました。なので、週末に大学生と練習をすることでその課題を埋めようと思った」
松本が福岡大に通えるようになったのは、尊敬している早大の先輩で2010年アジア大会(中国)の男子フリースタイル74kg級銀メダリストの長島和幸さんが、クリナップを退職して福岡大に赴任したことが縁となっている。白血病と闘っていた長島さんは、好転の兆しが見えて福岡大に転職。「よかったら、うちに練習においでよ」と声をかけてくれた。偉大な先輩が松本のレスリングの練習レベルを高めてくれた。
全国社会人オープン選手権で優勝。勢いをもって全日本選手権に臨む
長島さんはその直後に再び白血病が発症。現在は再度の闘病生活を送っているが、それがゆえに、ぜひとも先輩の期待に応えたいところ。「片道3時間かけて行く練習は、武者修行というか精神面を鍛えるためにも有効です」と、週末の練習が松本のレスリング士気を高めている。
足しげく福岡大に通った結果、11月24日に行われた全国社会人オープン選手権で見事優勝。試合時間の4分間、タックルなど動き回って勝利する姿を見た全日本コーチの一人は「早大時代と運動量が全く落ちていない」と大絶賛だった。
「(長崎国体で優勝するためにも、それまでに)強豪選手とたくさん試合をしてみたいと思っている」と松本。学生時代に“職業プロ”をも脅かした存在が、再び全日本選手権で台風の目となる―。