※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=ジャーナリスト・粟野仁雄)
2024年天皇杯全日本選手権の女子は、50kg級と57kg級で新たに創部されたKeePer技研レスリング部に所属する2人の実力者(吉元玲美那、屶網さら)が優勝した。いずれも至学館大の出身。同部の初代監督は、同大学から吉田沙保里さんら多くのオリンピック選手を輩出した栄和人氏である。
50kg級で優勝した吉元は、決勝で伊藤海(早大)に追い上げられたが逃げ切った。「勝てたけど、動きが悪かったのでこうなって(僅差勝利)しまった」と反省しきり。「来年の明治杯も優勝して、世界選手権に行くためにもこの半年間、頑張っていきたい。1年間、須﨑(優衣)さんの試合とかを見てきて、悔しかったことを忘れないで、次は絶対自分が出るんだと思って頑張っていきたい」と話した。
埼玉県の出身の吉元は「今日は(埼玉栄高校の後輩の)元木(咲良)選手に声かけられて、元気をもらいました」と涙ぐんだ。
2020年の全日本選手権と翌年の全日本選抜選手権に優勝して世界選手権へ初出場し、優勝した吉元。その年の全日本選手権も制し、パリ・オリンピック出場も視野に入っていた。しかし、東京オリンピック金メダリストの須﨑の存在が大きく、その後は世界選手権に出られず、パリに届かなかった。
「年齢のこともあるのですけど、(金城)梨紗子さんも世界選手権で優勝したりもしてる。どんな試合でも勝つことが大事なことで、今回は(勝てたので)少しは自分を褒めたい。ロサンゼルスが最後だと決めているので、レスリング人生をかけて目の前の試合を大事に勝っていきたい」と決意を見せた。
57kg級で優勝した屶網は「決勝は(手のうちが)分かっている相手(新井一花=育英大)だったのですが、第1ピリオドの終わりに投げられかけた時は危なかったですね」と振り返った。「分かっている」とは新井は至学館高校の後輩だからだ。
「妹(瑠夏)が今年の明治杯で、オリンピック階級(57kg級)で先に優勝していました。その時、自分はけが(右足靭帯損傷)で出られなくて悔しかったので、今大会は絶対取ってやると思っていました。妹と練習すると喧嘩になってしまうんですよ」と笑った。
準決勝では大会2連覇中の南條早映(自衛隊)を相手に見事にフォール勝ちした。「南條さんは小学校(クラブは違うが、同じ大阪のチーム)から大学までずっと一緒にやってきたけど、試合では一度も勝ったことがなかった。やっと勝ててうれしかったです」と微笑んだ。
とはいえ、この階級で勝ち抜くのは前途多難だ。来年から、パリ・オリンピック53kg級優勝の藤波朱理(日体大)が階級を上げて参入してくるからだ。まずは来年の全日本選抜選手権でぶつかりそう。屶網は「しっかり研究と対策をコーチと一緒に考えたい」と闘志を燃やした。
吉元と屶網を育てた至学館大&KeePer技研の栄和人監督は「屶網の57kg級は藤波が参入してくるから大変だが、負けずにロサンゼルスを目指してほしい。吉元は、力はあるけど試合前にケガをすることが多かった。減量がきついかもしれないけれど、当面は50kg級でやってもらいたい」と話す。
一方、至学館高校には注目の新鋭がいる。中学から連勝街道を突っ走り、ことしのU17世界選手権でも優勝した勝目結羽だ。栄氏は「来年は年齢制限が解けて勝目が全日本選手権も出てくるので楽しみです」と期待する。
女子は、かつての「至学館独占時代」ではない。栄氏は「育英大はいい選手が来ている。女子レスリングは今後は育英大、日体大、至学館を軸にした闘いなってゆくでしょう」と話す。
KeePer技研は至学館大学がある大府市に拠点を置き、車のコーティング関連などの製品を販売で全国展開する上場企業。栄監督は「私が話を持ち込み、今はレスリング支援に一生懸命になってくれています。私は、至学館の監督は今年度で退きますが、Keeper技研レスリング初代監督として力になりたいと思っています」と話す。
レスリングを支援してくれるスポンサーを開拓し、選手強化を目指す-。名伯楽の闘志は衰えていない。