※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
【ポレチュ(クロアチア)】2024年世界ベテランズ選手権のDivision B(41~45歳)70kg級に出場した坂本将典(SKアカデミー)が4試合を勝ち抜いて優勝。5年ぶり2度目の世界一に輝いた。
しかし、第一声は「情けない試合がありました。こんなこと(運が自分に来る)もあるんだな、と感じた優勝です」と、喜びではなく反省の弁。確かに、2回戦のAIN選手との試合は前半で0-8とリードされ、準決勝の米国戦も最初に4点を取られるなど、快勝続きではなかった。
しかし、そんな試合展開を覆して勝利につなげるのも実力のうち。2回戦は、第1ピリオドの終了間際にタックルで反撃したところ、相手が悲鳴をあげて足首を押さえた。古傷を痛めたのだろう。治療が施されたが足を引きずる状態で、坂本の第2ピリオドの猛攻になすすべなく、最後はフォール勝ち。
「自分にいいように転んだ、という感じですね」と話しながらも、「第1ピリオド、最後まであきらめずに攻めた結果なのかな、と思います」と、攻撃精神があればこその逆転勝利だったと自己分析した。
決勝の相手のエジプト選手は、アフリカ選手権7度優勝で2008年北京と2012年ロンドンの2度のオリンピックに出た強豪。後で分かったことだが、2008年北京大会の前は、日本での約40日の合宿(東京・味の素トレーニングセンター、長野・菅平)に参加しており、当時自衛隊の選手だった坂本もその合宿に参加していた。
「どこかで見たことのある選手だと思いました。オリンピック選手でアフリカ7度優勝ですか? 強いわけですね」と舌を巻きながらも、そんな選手に勝っての2度目の世界一に気持ちはよさそう。「もっと喜んでいいのでは?」との問いかけに、「これから支えてくれた皆さんに感謝の気持ちを伝えることで、喜びがわいてくればいいかな、と思います。まず皆さんに感謝の気持ちを伝えたい」と言う。
感謝の気持ちを最も伝えたいのは、元アーチェリー選手だった妻・綾子さん。「一番近くで支えてくれました。試合が近づけば(自分が)ピリピリしていたと思うし、深夜であってもマッサージしてくれた。つらい思いをしていたと思う」と話し、目を潤ませた。日本では深夜となるが、ネット中継を見てくれていたそうで、結果はリアルタイムで知っているが、「感謝の気持ちを直接伝えたい」と言う。
坂本の後の試合で優勝した78kg級の米国選手は、観客席で妻に抱きついて泣いていた。そのことを伝えると、「気持ち分かります」と、共鳴するものがある様子。「日本に帰って、抱きついて泣きますか?」との問いには、「いやあ、そこまでは…」と照れながらも、「病気もあったし、このマットに立てるのは奇跡かもしれません。妻もつらかったと思います。妻だけではなく、いろんな人に支えられています」と話した。
優勝のあと、勝目力也監督(全日本マスターズ連盟強化委員長)が「日の丸を手渡して、ウィニングランを促したが、これは即座に辞退。試合内容に納得がいかなかったことのほか、ガッツポーズなどの派手なことはできないそうだ。「あくまでも個人の意見であって、やっている人をどうこうは言いませんが」と前置きし、パフォーマンスは「自分の思う勝利の美学と違いまして…」とのこと。このあと、再度世界一になっても、「やりません」と言う。
日本では八田正朗さん、勝村靖夫さん、伊東克佳さんが達成している3度目の世界一は、あるのか? 「皆さんから支援を受けていました。(相談するので)いったん考えます」と明言を避けたが、3度と言わず、姉(小原日登美)が達成した「9度の世界一」を目指すのも、悪くはないだろう。