※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
スペイン・ポンテベドラで行われたU20世界選手権に出場した男子フリースタイル・チームが9月10日、羽田空港に帰国した。「金2・銀1・銅1」で、国別対抗得点はこれまでで最高の3位だった。
小平清貴監督(警視庁)は「各選手が実力を出し切ってくれ、その結果が団体3位につながったと思います」と総括。上位へ行った選手は「自分のリズムを作りながら攻撃し、リードしている中でも守ることなく自分のレスリングを貫いた」と評価した。
団体3位という大会史上最高の成績については「各所属の強化がうまくいっているからだと思います。日本のレベルが世界の上位へ行っていることは間違いない」と断言。軽中量級は以前から世界トップレベルにあったが、中重量級も世界で闘えるレスリングになっていることを感じるという。その流れに重量級も乗り、「すべての階級で勝てればいいと思います」と、今後の選手の踏ん張りに期待した。
61kg級で4試合中3試合をテクニカルスペリオリティで勝った小野正之助(山梨学院大)は、10月の非オリンピック階級の世界選手権(アルバニア)へ向けて最高の結果を出した。「大学の先生や選手から『勝って当たりまえ。全試合テクニカルスペリオリティじゃなきゃ駄目だ』といったプレッシャーをかけられていまして…。その面では、ホッとしました」と安堵の表情を浮かべながらも、「世界選手権へ向けて、もう気持ちが切り替わっています」と、次の目標を見据えていることも強調した。
10点差をつけられなかったのは、準決勝の米国選手。この選手は、米国のオリンピック予選57kg級で2021年世界王者のトーマス・ギルマンに惜敗して3位だった強豪。「とりあえず勝てたし、テクれる内容でもあったので、よかったです」と言う。
決勝の相手は昨年のアジア大会のイラン代表選手。シニアの舞台で活躍している強豪に勝てたことは、大きな自信につながるだろう。一方で、「世界に名が知られたでしょう」と、多くの選手から研究される立場になったことも認識している。「ワンランク上の技を身につけて、(研究を)上回れるかですね」と話した。
世界選手権には、2021年東京オリンピック57kg級優勝のザウール・ウグエフ(ロシア)がAIN(中立)の選手として出てきそうとの情報を得た。「ウグエフに勝って優勝したい」ときっぱり。
70kg級の山下凌弥(日体大)は、国際大会初出場での快挙達成に「めっちゃ、うれしいです」と第一声。優勝したことで観客から記念写真やサインを求められ、「シニアの世界選手権やオリンピックなら、もっとすごいと思いました。そこでの優勝が目標になりました」と、この結果が勝がさらなる高みを目指すエネルギーになったもよう。
試合で出せた技は、8割くらいが日体大の湯元健一コーチから教わったもので、勝因はそれをきちんと出せたこと。また、日体大の道場で練習しているパリ・オリンピック金メダリストの清岡幸大郎(三恵海運)が、オリンピックの疲れが残っているであろう時期にもかかわらず親身になって練習に付き合ってくれ、直前までアドバイスを送ってくれるなど、先輩の励ましも「優勝の大きな原動力」だったと言う。
代表に決まったあと、目の病気や負傷のため本当に追い込んだ練習はできなかったそうだ。地力がそのハンディを埋めてくれた。「焦らずに調整したのがよかったと思います」と振り返った。
3スタイルを統括した馬渕賢司チームリーダー(岐阜・恵峰学園職)は、“けがの巧妙”によるチームワークの強さを好成績の要因に挙げる。パラリンピックの関係で8月下旬は味の素トレーニングセンターの宿泊ができず、事前合宿を実施するかどうか迷ったそうだが、周辺の旅館を確保。10人一部屋などの“昭和の修学旅行”的な合宿となったが、かえって選手同士のつながりができ、雰囲気がよくなったと言う。
メダル獲得の伝統をつなげた男子グレコローマン、団体世界一を奪還した女子、優勝選手を輩出した男子フリースタイルという結果に一定の評価を与え、外国の顔見知りのコーチの多くから「日本、強くなったね」と言われたことで、日本全体の底上げができていることを実感したそうだ。
グレコローマンの団体9位を上昇させることが今後の大きな課題だが、「U15のグレコローマンが始まる。キャリアの差を埋めていけば、今以上の結果が出てくる」と期待した。
■65kg級2位・細川周(日体大)「最低限の目標はクリアできましたが、最後に勝ち切れなかったのは悔しい。(相手に)させたくない攻撃をさせてしまい、自分の攻撃ができなかったなど、課題が多く残った決勝でした。ただ、決勝だからといって緊張することはなかった。集中できていたと思います。準決勝までは、だいたい満足できる内容でした。このあとは、まず全日本選手権でメダルを取りたい。そこから世界選手権や(2年後の)名古屋のアジア大会につなげていければいいと思います。(この階級の日本のトップのレベルはすごく高いが…)自分が倒したいですね」
■74kg級3位・安藤慎悟(山梨学院大)「初めての国際大会ではなく、何回か海外の試合に出場していて、その経験が生きた銅メダルかな、と思います。(負けたイラン選手は)力も技術も上でした。今後、国際舞台でのライバルになる選手だと思いますので、勝てるように頑張りたい。まず大学チャンピオンになりたい」