【2024年全日本学生選手権・特集】妹のU17世界制覇に刺激をもらい、初の学生タイトルを獲得…男子フリースタイル57kg級・勝目大翔（山梨学院大）
※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
（文＝布施鋼治）
「大学に入ってから初めての優勝だったので、うれしかったです」
2024年全日本学生選手権・最終日（8月26日）、男子フリースタイル57㎏級は勝目大翔（山梨学院大）が、５試合中４試合をテクニカルスペリオリティで制して頂点を極めた。
先日、ヨルダンで開催されたＵ17世界選手権の女子46㎏級で優勝した勝目結羽（愛知・至学館高）は実妹。「妹の活躍が刺激になった？」と聞くと、勝目は「追いつけるように頑張りました」と控えめに小声で答えた。
▲アジア王者を破った6月の東日本学生リーグ戦に続き、学生王者に輝いた勝目大翔（山梨学院大）
ちなみに、この日行われたフリースタイル決勝では、10階級中4階級で山梨学院大が制し、リーグ戦での優勝に続き、あらためてその強さをアピールした。勝目を指導する高橋侑希コーチは「6階級での優勝を目指していたので、小幡（邦彦）監督と『全体評価としては、100点中、70点か65点くらいかな』と話し合っていました」と、意外にも厳しい評価を下す。「ただ、メダルまではいかなくても活躍した選手もいたので、それは収穫になりました」
現役時代、高橋コーチは同じ57㎏級だっただけに、勝目は「ずっとスパーリングで相手をしてもらいました」と感謝を口にした。「でも、まだやられちゃう（苦笑）。今日は『（相手は）高橋先生より強くない』と暗示をかけながら闘っていました」
オリンピック王者・樋口黎と闘うなら…？
一方、高橋コーチは勝目の成長を肌で感じている。「スパーリングをやると、どんどん強くなっていることが分かる。まあ、今回は、今年のアジア王者の弓矢健人（日体大）や明治杯（全日本選抜選手権）で3位だった永井陸斗（日大）が出場していなかったので、勝つべくして勝った大会だと思います」
勝目は現在、2年生。JOCジュニアオリンピックカップ（Ｕ20）では2年連続でファイナリストになっているが、ともに優勝からは見離されていた。高橋コーチは「一番になれたことで、大きな自信につながる」と分析する。「勝目選手のレスリングを一言で表現すると、瞬発系。つまり速さを武器にしている。そうなると対戦相手とぶつかり合うリスクもあるので、けがに気をつけてもらいながら、オリンピックの金を目指してもらいたい」
▲決勝の相手はグレコローマンの学生王者。フリースタイル専門選手として負けるわけにはいかなかった！＝撮影・保高幸子
高橋コーチは、2021年東京オリンピック代表決定プレーオフで樋口黎を破り、東京オリンピック出場切符を得た。国内では樋口の強さを最もよく知るひとりといえる。
もし、現在の勝目がパリ・オリンピックで金メダルを獲得した樋口と闘わば？
「まだまだだけど、僕は（勝目が）ポイントは取るんじゃないかと思っています」
同じ質問を本人にぶつけると、勝目は「樋口選手が次の全日本選手権に出場するなら、手合わせをお願いしたい」と目を光らせた。「実力的には自分の方がまだ全然下だと思うけど、（将来的には）勝ちたい」
清岡兄妹とともに、兄妹でのオリンピック代表を目指す！
父・力也さんも元選手で、静岡・沼津学園高（現飛龍高）ではインターハイ2連覇、大学時代はこの大会のグレコローマン52kg級で3連覇を達成した実績を持ち、自衛隊を経て、現在は神奈川県横須賀市にあるNEXUS YOKOSUKAで後進の育成に余念がない。
勝目が進学先に山梨学院大を選んだ理由のひとつとして、「父が山梨学院大出身だったということもある」と打ち明ける。「もうひとつは、いろいろな先輩たちの活躍を見て、自分も山梨に行きたいと思いました。最終的には自分の意思で決めました」
▲インカレ王者だった父に追いついた勝目。父の3連覇に並べるかどうかは、これからの努力次第＝撮影・保高幸子
今大会の前に、父から「優勝したら、何が欲しい？」と訊かれ、「新しい携帯を買ってほしい」というリクエストを出したそうだ。前述したように、力也さんはインカレで３連覇を達成しているだけに、この大会への思い入れは強い。勝目が優勝したら、父子優勝ということになるのだから当然だろう。それを具現化した息子は声を弾ませた。
「今回の優勝はとても喜んでくれていると思うので、お目当ての携帯を買ってくれると思います」
今大会の女子55㎏級では、パリ・オリンピック男子フリースタイル65㎏級で金メダルを獲得した清岡幸大郎（三恵海運）の妹・清岡もえ（育英大）も優勝し、2028年ロサンゼルス・オリンピックには兄と一緒に出場することを誓った。勝目兄妹が、早くも始まったオリンピック代表レースに割って入るか。
