※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
6月の東日本学生リーグ戦で4位に入り、古豪復活の足音が聞こえ始めた中大。1年生にもかかわらず、6試合中5試合に出場して4勝1敗、決勝リーグの山梨学院大、日体大、日大の選手を相手に3連勝したのが86kg級の淺野稜悟(静岡・飛龍高卒)。入学直後の4月のJOCジュニアオリンピック(JOC杯)U20でも優勝しており、躍進大学の中でもひときわ光る活躍を見せた。
8月23日からの全日本学生選手権(東京・駒沢屋内球技場)で1年生王者の期待がかかる。そのあとも9月のU20世界選手権(2~8日、スペイン・ポンテベドラ)へも出場が決まっており、熱く燃える夏を迎えることになるが、長野・上田西高に在籍している弟の淺野称志(のりゆき=2年)もJOC杯U17-92kg級で優勝。8月のU17世界選手権(19~25日、ヨルダン・アンマン)への出場を決めており、兄弟で2世代の世界制覇を目指すことになった。
兄弟で別の高校を選び、自分にぴったりの練習環境で鍛えた実力を世界の舞台で発揮できるか。
兄の淺野稜悟は、高校生だった昨年のJOC杯U20-79kg級でも大学生4人を破って優勝。非凡な才能を見せていた(関連記事)。
今年のJOC杯でも優勝するのは当然と言えば当然。「狙っていました」と言う。だが、前年は79kg級での優勝であり、インターハイなど高校の試合は80kg級(インターハイと国体で優勝)。高校卒業を機に86kg級に定めてからは初めての試合だったので、「パワー的に不安はありました」と振り返る。
ほとんど失点のなかった前年(4試合で総失点5点)に比べると、同じ4試合で11点も取られたのは、階級アップの影響か? 自分の感覚では「全試合、接戦でした」とのこと。マークされる存在になっているだろうし、簡単には勝たせてもらえないのが勝負の世界だ。
だが、この優勝で、昨年は2回戦敗退(11位)で結果の出せなかったU20世界選手権へ再挑戦することが決まった。「去年は初めての世界選手権ということで、緊張している部分はありました。今年は、経験があるので、もっと自分から攻めることができると思います」と気合を入れる。
昨年の闘いから感じたことは、79kg級でも体が小さくパワーもないこと。そのため、パワー・トレーニングをしっかりこなして筋肉をつけ、体重を増やすことを念頭に置いて練習を続けてきた。今後もそれが課題。技術的には、得意の崩しからのタックルに磨きをかけて、外国選手の牙城に迫る腹積もりだ。
90kg級でオリンピック2大会連続メダルを手にした太田章のような例もあるが、重量級はなかなか勝てなかったのが日本レスリング。メダルに手が届けば“快挙”と言っても過言ではなかった。
だが、2018年に79kg級で石黒隼士(日大=現自衛隊)がジュニア(現U20)の世界一に輝き、2022年には白井達也(日体大=現佐賀県スポーツ協会)がU23世界選手権を制覇。昨年のアジア選手権では19歳の吉田アラシ(日大)がシニア・アジア選手権92kg級を制し、シニアの世界一も夢物語ではない時代になっている(いずれも男子フリースタイル)。
「その流れに乗りたいのでは?」との誘い水には、「今は(全日本トップと)天と地ほどの差がありますから…」と苦笑い。5月の明治杯全日本選抜選手権も実績が足りずに出場できなかったので、まず国内の86kg級の日本代表選手クラスと闘える位置に行くことが先決と思っている。だが、いずれはその流れを受け継ぎたいという気持ちは十分だ。
年が2歳違う弟・称志は、兄を追ってレスリングを初めた。体の大きさが違ったので(弟の方が大きかった)スパーリングする機会は多くなかったが、年齢が近く、常に兄の背中を追い、アドバイスを受けてきた。
昨年はU15アジア選手権に出場して、兄と同じく初の国際大会を経験。「緊張してしまって」というのも兄と同じで(初めての国際大会なら、だれもが緊張すると思うが…)、初戦でイラン選手に完敗だった。そのときの経験を生かし、今年のU17世界選手権では持っている実力を出し切ることを目標とする。「今年は、国際大会へ臨む怖さはないです。緊張せずに頑張ります」と言う。
開催場所が、奇しくも前年と同じヨルダンのアンマン。未知の地へ行く不安はなく、試合に集中できる。92kg級ともなれば外国選手とのパワーの違いが大きくなるので、体力づくりとパワー対策が課題。上田西高校は、車で2時間ほどの山梨学院大のほか、中大や拓大にもよく出げいこし、大学生とも練習を積んでいるので、その成果を生かしたいところだ。
高校進学にあたり、兄を追わなかったのは、「同じ高校で兄に甘えたくない」ことのほか、中学のときにいろんな高校の練習に加わり、自分に一番合う、と思ったのが上田西高だからだ。キッズ・クラブ時代からの知り合いの先輩がいて親しみやすかったことや、全日本のトップ選手でもあった平井進悟監督(拓大卒)の指導が自分に合っていると思ったことも決め手のひとつだった。
実際に進学して、「レスリングが今まで以上に楽しくなりました。自分の力を伸ばしてもらったと思っています」と振り返る。
兄弟だから同じ道を歩む必要はないし、決めつけることでもない。髙橋夢大(三恵海運=京都・網野高卒)と海大(日体大=JOCエリートアカデミー出身)のように別の道を進み、結果を出している例もある(大学はともに日体大)。兄弟といえどもレスリングの資質やスタイル、性格が違うのだから、自分に合った進路を見つけることが必要。
強くなるには、自分の進む道を自分で考える力も重要になってくる。熟考したうえでの選択ならいいが、兄や親に言われるまま進路を決める主体性のない選手では、伸びる可能性は少ないだろう。
称志は、U17世界選手権の前に佐賀インターハイ(8月1~4日)に全力投球だ。3月の全国高校選抜大会では、優勝した小玉龍舞(高知・高岡高)に負けて5位。JOC杯は決勝で同2位の吉田悠耶(佐賀・鳥栖工高)を破ったものの、小玉はU20に出場して対戦はなかったので、高校一になったわけではない。「まずインターハイで全力を尽くしたい」と、兄が昨年達成したインターハイ王者を成し遂げ、勢いをつけてU17の“世界取り”へ挑む腹積もりだ。
“兄弟タッグ”は1+1が3にも4にもなるが、同じチームではなく、最も合った練習環境を選んで別の道を歩んでも、お互いに刺激し合えば実現する。淺野兄弟はこの夏、どんな闘いを見せてくれるだろうか。