2012.11.15

【全日本大学選手権・特集】尊敬する後輩、嶋田大育とW優勝!…84kg級・葈澤謙(国士舘大)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=増渕由気子)

 全日本大学選手権の中量級は、国士舘大の風が吹き荒れた! 84kg級は国士舘大の主将、葈澤謙(からむしざわ・けん=右写真)が決勝で松本岬(日体大)を2-0で破って初優勝。前日の74kg級・嶋田大育に続いて国士舘大2個目の優勝を勝ち取った。葈澤は「昨年のこの大会や全日本学生選手権(インカレ)など、いつも3番だった。やっと優勝できた。素直にうれしい」と喜びをあらわに。

 優勝した瞬間、セコンドの和田貴広コーチにかけよって喜びの抱擁。第2セコンド付近には、葈澤と部内でしのぎを削っており、2年生ながら学生二冠王になった嶋田が顔をくしゃくしゃにして喜びを爆発させていた。

■葈澤と嶋田のライバル関係とは

 74kg級と84kg級の2階級を制し、大学対抗得点も4位に浮上と国士舘大のポテンシャルを十分に発揮した今大会。青森県の出身の葈澤と嶋田の2人が、今季の国士舘大を大黒柱としてけん引した。

 葈澤は昨年から74kg級のレギュラーとして国士舘大の看板を背負って闘ってきた。最終学年の今季は、和田コーチから「責任感がある」と主将に指名され、チームをまとめてきた。6月の全日本選抜選手権では学生トップレベルの北村公平(早大)を破って準決勝に進出し、3位と表彰台も経験した。主将として選手として順調な滑り出しに見えたが―。

 学生王者を目指して臨んだ8月の全日本学生選手権では準決勝で同門対決となり、葈澤は2つ年下の嶋田に1-2で敗れるという試練を味わった。第1ピリオドで一本背負いが決まってフォールの体勢に持ち込んだ。葈澤はフォールを決めにいったが、惜しくもタイムアップ。スタミナが切れた第2、3ピリオドを1-2、0-1ときん差で逆転負けを喫し、最後のインカレは3位と“定位置”に終わった。

 最後の学生の大会となる今大会は、74kg級の正メンバーをのどから手が出るほど欲しかった。だが「チームのため」と、和田コーチに84kg級の出場を志願する。これが結果的に国士舘にいい流れを引き寄せた。

■「また、このパターンで負けるのか?」と奮起

 インカレで嶋田に負けたことが、今大会の決勝戦に活かされた。松本との決勝は、開始直後にバックドロップの大技を決めて3点。攻撃の手をゆるめず、わずか39秒で6-0とテクニカルフォール。嶋田と対戦した時のように第1ピリオドはあっさりと手にした。

 第2ピリオド、攻めの姿勢をとるものの、攻守が激しく入れ替わり中盤には3-5とリード奪われてしまう。この時、葈澤の脳裏に嫌なイメージが浮かんできた。「またこのパターンで負けてしまうのか―」。

第2ピリオドの終了間際、こん身の力を振り絞ってローリング

 ラスト30秒にバックポジションを奪った葈澤はこん身のローリングを仕掛けるが、松本がこらえる。第3ピリオド突入かと思われた瞬間、2度目のローリングが決まって6-5と逆転したところで終了のブザーが鳴った。

 いつもは体力勝負になると心が折れて勝負をものにできなかったが、今大会は「ここで勝たないと!」と強い気持ちを持った葈澤がいた。この1年間、試合だけでなく、ふだんの練習から嶋田とライバル関係を持ってしのぎを削ってきたことが報われたのかもしれない。

 「嶋田は、自分とは違う部分を持っている。レスリングもうまいし尊敬している、いいライバル。嶋田がいたおかげで自分にないものに気づけた。今大会はともに優勝して一緒に喜ぶことができてうれしいです」と、素直に後輩を評価した。

 だが、負けたままでは終われない。「12月の全日本選手権はシード権がある74kg級に出ます。ここで嶋田と対戦して勝ちたいですね。社会人になったら、正式に84kg級にアップします。嶋田と同じ階級に出るのは最後なので、バッチバチで行こうと思っています」と、早くも勝利宣言。学生での総仕上げとして、最強の後輩と最高の舞台で雌雄を決する。