※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子)
大会史上20人目の快挙達成! 全日本大学選手権96kg級は、6月の全日本選抜選手権優勝の山本康稀(日大=右写真)が決勝で稲木翔太(福岡大)を第2ピリオドにフォールで下し、1年生王者に輝いた。
■「たまたま優勝」した全日本選抜選手権の優勝がもたらしたもの
山本は埼玉・花咲徳栄高時代に2年生で高校3冠王に輝いた逸材で、今春、満を持して日大に進学した。6月の全日本選抜選手権では、大学1年生ながらトーナメントを制して優勝。次世代の重量級のホープとして注目されていた。
だが、栄光とは裏腹に山本にとって全日本選抜王者の肩書は、誇らしさから一変することもしばしば。「周りから『勝って当たり前だね』とばかり言われてしまって…。その大会には主力選手がほとんど出ていませんでしたし、自分の中では、たまたま優勝してしまったという感じなのに」。
無欲、そしてがむしゃらに試合をこなした結果としてつかんだ栄冠が、山本にプレッシャーとして重くのしかかることになってしまった。「勝って当たり前」と言われて臨んだ8月の全日本学生選手権(インカレ)では、準決勝で昨年の学生王者の大坂昂(早大)に1-2で競り負けて3位に終わった。全日本選抜王者の肩書を持ってはいたが、「まだまだ力がついてない」と実感した一戦だった。
技術面でも大学の壁にぶつかった。高校時代は無敵の強さを誇った山本だが、「高校レベルの技が通用しない」と、大学のレスリングを研究中だ。「むやみにタックルに入りすぎるな、とアドバイスされています」と、以前はタックル中心だった練習も、組み手の練習に時間を割くようになった。
「確実に取れるタイミングで入るのが目標ですが、まだこのタイミングをつかみ切っていない」と課題はまだまだ残るが、大学1年生でそれに気づき、改善しているのだから、成長の伸びしろは十分にありそうだ。
決勝で闘う山本康稀
今大会のヤマ場は、3回戦で顔を合わせた昨年84kg級王者の佐々木健吾(日体大)との一戦だった。本人は「完成度が低い」と言い切ったが、要所にのみタックルを仕掛け、相手の脚を触れば、ほぼ確実にポイントにつなげて2-0で勝利。日体大の柱に勝った。
これで勢いに乗った山本は、準決勝では亀山晃寛(山梨学院大)、決勝で稲木に勝って優勝を手にした。「本当は、大坂さんにリベンジしたかったのですが」と苦笑いを浮かべた。
次の目標は「11月27日に行われるユニバーシアードのプレーオフ戦です」と、学生王者の木下駿(拓大)とのワンマッチに焦点を当てていく予定だ。6月の全日本選抜選手権の初戦で闘い、山本が勝っているが、2-1のきん差だった。今度はしっかりと勝っておきたいところだ。
12月の全日本選手権に話を向けると、「国体の決勝で負けた山口(剛)さんに勝ちたい」と、どん欲さを見せた。大学1年で全日本選抜選手権、そして全日本大学選手権を制した山本の真の実力は、全日本選手権で明らかになるのか―。