※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子)
真の復活だ! 全日本大学選手権120kg級は、昨年決勝で負傷棄権し準優勝に甘んじた前川勝利(早大=右写真)が、決勝で大石亮(中京学院大)を2-0(5-0,5-0)と圧勝で制し、10月の全日本学生グレコローマン選手権に続いて“大学選手権”で2連勝した。
前川は「僕のブロックにインカレ王者(金沢勝利=山梨学院大)や全日本大学グレコ選手権の決勝の相手(村木孝太郎=拓大)など強豪が集まった“死のブロック”。さらに僕の専門ではないフリースタイル。不安はあったけど、失点なしで優勝できたのでよかったです」と安堵の表情を浮かべた。
■大けがをした昨年のトラウマとも闘う
不安要素は、強豪ブロックと専門でないフリースタイルだけではなく、“昨年のトラウマ”もあった。昨年は、大学1年生ながら入学直後の全日本選抜選手権で優勝。山口国体でも優勝し、シニア大会を2つ制した。その後、岐阜国体のリハーサル大会として開催された昨年のこの大会の決勝で、相手が仕掛けた技でひざのじん帯を損傷。そのまま救急車で病院に運ばれ、試合を続行することはできなかった。
けがの治療のため今季前半は棒に振ることに。大学の威信をかけて臨む東日本学生リーグ戦や、全日本選抜選手権、全日本学選手権などのビックマッチは応援でしか参加できなかった。
「去年のこの大会で自分はけがをしたんだ…」と、心情的に不安要素が広まっていく。けがをした時の相手、村木とは3回戦で対戦。早ラウンドで対戦したことも、前川にプレッシャーがかかる要因だった。
3回戦で宿敵・村木にフォール勝ちした前川
■グレコローマンのユニバーシアード代表を手中へ
来年7月に行われる学生の祭典、ユニバーシアード(ロシア)の日本代表は、全日本学生選手権と各スタイルの全日本大学選手権の優勝者が違った場合、プレーオフを実施して決めることになった。この階級は、両スタイルとも金沢と前川の争いとなる。
しかし金澤がフリースタイルを選択するとのことで、そうなると、グレコローマンはプレーオフなしで前川が代表になる可能性が高くなる。1年前のケけがのため、ロンドン五輪へは満足に挑戦ができず、世界ジュニア選手権など他の重要な大会も欠場を余儀なくされたが、「ユニバーシアードに行けるなら、チャラかな」。
精神的なトラウマや、専門外のフリースタイルでも無失点で優勝と怪物らしさを存分に見せつけた前川。「学生大会2連勝で、真の復活を果たせました」と最後まで笑顔が絶えなかった。