※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=池田安佑美)
高校無冠の雑草が大学4年で学生王者へ! 全日本大学グレコローマン選手権の60kg級は、8月の全日本学生選手権(インカレ)3位で今大会初出場の射場大地(日体大)が決勝戦で池田圭介(早大)を2-0で下して初優勝。11歳でレスリングを始めて以来、初の全国タイトルを手にし、敢闘賞も受賞(右写真)。
同時に、笹本睦や松本隆太郎らで築いた“日体大黄金の階級”の伝統に名前を刻んだ。
■苦手なグラウンドの防御をしのいで勝利を近づけた
決勝戦は攻守がかみ合い、射場にとって理想的な展開だった。「スタンドで点を取りに行く日体大スタイルが自分の型」と話すように、スタンドから動き回って池田の体力を消耗させた。第1ピリオドのグラウンドはディフェンス。「スタンドとグラウンドの攻撃は得意だけど、グラウンドのディフェンスはちょっと…(笑)」と守りに自信がなかった射場だが、30秒間腹ばいで動き回り、池田にクラッチを満足に組ませずに逃げ切った。
決勝の第1ピリオド、苦手なグラウンドの防御をしのいだ
優勝した瞬間は「良かった!」と心の中で叫んだ。今大会には、全日本学生選手権の王者は出場していない。日本で最も層の厚い日体大の部内選考で、射場が学生王者の松澤力也を押しのけてレギュラーメンバーに選出されたからだ。「自分はインカレ3位で、松澤は優勝。分が悪いと思っていたが、自分が出るつもりで最大限のアピールはしてきた」と、この1ヶ月で最大限の努力はしてきた。
■「成績がなくても、レスリングが好きなら辞めないでほしい」
「腐ってはだめだ。心が折れたら終わりだ」―。射場は自身にずっとこれらの言葉を言い聞かせてきた。キッズレスリング出身でレスリング歴は長いものの、徳島・穴吹高時代では無冠。出場した全国大会は全国高校選抜選手権とインターハイのみで(ともに初戦敗退)、全国高校生グレコローマン選手権や国体には出場すらできなかった。
1点に終わったがリフト技を決め、その直後に押し出した
穴吹高に限らず、高校でタイトルがなくても、大学で才能が開花し、その後ナショナルチームで活躍した選手は数知れない。それができるのが“日体大”のすごさ。射場は「全国の高校生に言いたい。高校時代に成績が出なくても、レスリングが好きならば辞めないでほしい。大学に行ける環境なら、進学してレスリングを続けてほしい」と言う。自らを持って、これを実証してみせた。
やっとつかんだ“全国王者”の肩書。だが、射場は満足していない。「まだ、やり切った感じはないです。12月の全日本選手権もありますし、卒業後も競技を続けたい」。全日本タイトルを獲得すれば、レスリングに専念できる“プロ選手”への道が開ける可能性が高い。「出るからには勝ちたいです」と、未来をかけた大舞台への意気込みを見せた。