※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=池田安佑美)
逆転優勝を決め、須藤元気監督の胴上げ
優勝者の数は1人で、日体大の3階級、早大の2階級の後塵を拝している。しかし、84kg級の横澤徹と120kg級の村木孝太郎が準優勝、55kg級の十河勇児、60kg級の佐々木晋、66kg級のルーキー、湯田敬太、74kg級の小森大祐の4選手が3位入賞と、出場全選手がメダルを獲得という総合力で2大学をしのいだ。
須藤元気監督が「優勝者が1人で団体優勝は珍しい。5月の東日本学生リーグ戦では日体大に決勝で敗れていますので、(この形式の)団体戦で拓大の意地を見せることができました」と、総合力で優勝を“奪回”した。
日体大は軽量3階級を制したが96kg級が0点。早大は74kg級と120kg級の2階級で優勝したが84kg級で無得点と、ともに穴があったが、拓大は全階級で6点以上を稼ぎ、逆転Vにつながった。
表彰式で最優秀監督賞を受賞し、「WORLD ORDER」のダンスパフォーマンスを披露した須藤監督
実は満身創痍のチーム状況だった。西口茂樹部長が「60kg級の佐々木は10日前に脱きゅうして入院。74kg級の小森もろっ骨を痛めて(今月初めの)国体後に入院。120kg級の村木は春に血栓症にかかって、今大会が復帰戦」と、チームの核となる選手に次々とアクシデントが起こった。
だが、選手には信念があった。60kg級の佐々木が「今大会は4年生が中心だったので絶対に出たかった。(ケガが悪化して)全日本選手権を棒に振ってでも出たかった」と、脱きゅう直後から出場を前提に入院。結果は3位だったが、「みんなと一緒に闘えてよかった」と、団体戦にかける思いを強く持っていた。
120kg級の村木も約1年ぶりの公式戦だった。昨年はグレコローマンで学生二冠王者となり今年は重量級の要として期待されていた。今年の春に血栓症を発症。村木の説明によると、「血栓が肺に飛んだら即死と医者に言われました。即入院することになり、レスリングどころではなく、治療だけを考えなければならなかった」と生命すら危ない状況だった。「血液をサラサラにする薬を飲んでいて、(出血が致命傷となるので)対人競技が医者から制限され、エアロバイクと筋トレばかりだった」とレスリングの練習は制限されていたが、9月にようやくマット練習に復帰できた。
決勝戦では高校時代から苦手意識のある前川勝利(早大)に第2ピリオドでフォールされてしまったが、第1ピリオドはグラウンドの攻撃でローリングを決めて一矢報いる活躍を見せるなど、村木にとって団体優勝かつ個人2位は、大手を振って喜ぶ結果だった。
■須藤監督の言葉で気持ちを引き締める
最終日のセコンドには須藤元気監督の姿があった。初日が終わって全員3位の総合3位に、「日体大は軽量級が強く、早大は重量級にもコマを残していた。互いに意識している状況。その分、拓大はノーマークだったのでやりやすかった」と逆転優勝のシナリオ通りだったようだ。
2010年全日本大学選手権以来、2年ぶりに上演された拓大伝統の「拓大踊り」。指揮者(右端)は宮澤正幸・OB会最高顧問
こんな時こそ気を引き締めなければならない。「勝負というのは、こういう時に浮かれてしまうと足元をすくわれる。どちらかというと、今大会は拓大が(早大と日体大の足元を)すくってきた。決勝前で浮かれてしまっては、元に戻ってしまう」とチーム全体にゲキを飛ばしたことも功を奏した。西口部長は「須藤監督が来たら勝った。“須藤マジック”だよ」とご機嫌そのもの。
拓大が学生3大大会の一つを獲った。残る団体タイトルは、来月10~11日の全日本大学選手権(東京・文京スポーツセンター)。“須藤マジック”で拓大が大学タイトル2冠目を奪うか―。