※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
【ベオグラード(セルビア)、布施鋼治】試合が終了した直後、小川航大(自衛隊)はマットで片ヒザをつくような姿勢で、うなだれたまましばらく動くことができなかった。
2023年世界選手権第2日(9月18日)に行なわれた男子フリースタイル61kg級3位決定戦。小川はタイルベク・ジュマシベクウウル(キルギス)に1-2で敗れた。アクティビティー・タイムによって1点を先制され、場外押し出しで1点を返すという展開の中、試合は小川の1点ビハインドで進み、そのまま試合終了のホイッスルが鳴った。
このキルギス選手とは今年4月のアジア選手権2回戦で闘い、1-4で敗れている。小川にとってはリベンジする絶好のチャンスだったが、返り討ちに遭ってしまった。
試合後、ミックスゾーンに現れた小川は涙ながらに話し始めた。
「前回の試合映像を見て、相手が何をしてくるのかは頭に入っていた。もっと自分の形にもっていけば勝った試合なのかなと思います」
唇をかみながら、こうも言った。「最後の最後で自分の弱いところが出てしまいました」
大会初日、小川は準々決勝で、父が1991・95年世界王者(ブガール・オルジェフ=ロシア)という異色のルーツを持つビタリ・アルジャウ(米国=関連記事)に2-8で敗北を喫した。アルジャウが決勝進出を決め(その後優勝)、敗者復活戦に出場するチャンスを得た。
アルジャウに負けた直後、小川は「気持ちの面で弱気になっていたことが、この結果になってしまった。(最初は)勝ち上がっても、あと一歩のところで勝てない」とうなだれていた。その弱点を払拭するかのように、敗者復活戦ではオスムジャン・ダスタンベク(カザフスタン)を撃破したが、メダルのかかった3位決定戦では再びあと一歩届かなかった。
「頭ではわかっていても、身体がうまく動かなかった」
試合後、湯元健一コーチからは、はっきりと指摘されたという。「最後の最後で1点を2点にできなかったことが敗因」
それでも、今回初めて世界選手権に出場したことで、「世界」の感触をつかんだ。2回戦では昨年2位のレザ・アトリナガルチ(イラン)を破るという殊勲の星を挙げた。プラスもあったが、多くの課題も見つかったということか。小川は冷静に第5位という成績を受け止めている。
「そもそも自分のレスリングはまだ弱い。(もっと)レスリングの力を身につけていかないといけない。その気持ちを一番大事にして頑張りたいと思います」
1点に泣いた経験を活かせるか。