※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
2年前の京都大会で、彗星のように登場したインターハイ1年生王者・山口叶太(東京・自由ヶ丘学園)が、昨年の高知大会に続き、今年のインターハイも制して男子史上5人目のインターハイ3連覇を達成した。
山口は「3連覇は非常にうれしいです」と言いながらも、「接戦続きで、快い優勝とはいきませんでした」と厳しい表情。昨年の優勝、そして今年3月の全国高校選抜大会が、ともに全5試合をフォールかテクニカルフォールでの勝利だっただけに、2試合でフルタイム闘うことを余儀なくされた内容に満足度が欠けた様子だ。
苦戦のひとつが、準々決勝の安藤慎悟(大阪・興國)との一戦。昨年のU17アジア選手権の王者だが、山口は昨年のJOCジュニアオリンピックと国体での対戦で、ともに第1ピリオド、無失点のテクニカルフォール勝ちで快勝した相手。自信をもって臨めた試合だったはずだ。だが、安藤も成長している。粘りに遭い、テークダウンを許す内容。5-2で勝ったものの、研究されていることを感じる試合内容。
試合途中で唇を切り、出血が止まらないアクシデントも。「そんなに気にならなかったです」とは言うものの、万全の状態で準決勝、決勝に臨めなかったことは間違いあるまい。事実、決勝では再度切り、出血してしまった。
決勝は、小学生時代に全国王者を阻止された経験を持つ荻野大河(埼玉・埼玉栄=当時PHOENIX)が相手。序盤にグラウンドのカウンター攻撃を受けて、あわやフォール負けのピンチ。それを乗り切って巻き返したが、昨年にはない展開が2試合あった。
全体を通じて、いったんアンクルホールドの体勢に入ったら連続攻撃ができるなど高い得点能力を示した。それでも、「ポイントを取られたのが…。デフェンスが今後の課題です」と反省。大会前に一番気をつけていたことが「点を取られないこと」だっただけに、その思いを達成できなかったのは悔やまれるようだ。「修正して今後につなげたい」と、今大会の“苦戦”をばねに、今後の飛躍を誓った。
1年生王者になったことで、勝利を“義務づけられる”ことになったが、「それほどプレッシャーはなかったですね。多少はありましたけど、一戦一戦を勝つ、ということを意識してきただけです」と振り返る。続けて、「1年生で、よく優勝できたな、と思いますね」と苦笑まじりに話し、入学前には「考えてもいないことだった」とのこと。
3連覇を達成し、東京オリンピック優勝の乙黒拓斗(現自衛隊)の高校時代に並んだことを言われても、「実感ないんです」と苦笑い。
乙黒と大きく違うのは、ノーマークに近い選手だったこと。「彗星のように登場した」というのは、決してオーバーな表現ではない。山口が高校に入学する前年の2020年は、新型コロナウィルス蔓延のため社会全体の活動が停滞。中学生の全国大会(全国中学生選手権、全国中学選抜大会)やJOC杯ジュニアオリンピックが中止となり、実力を披露する場がなかった。
2021年3月に全国高校選抜大会が開催されたので、同年夏のインターハイでの2・3年生については、ある程度の実力は分かったが、山口らの1年生に関しては、2019年までの実績が実力査定のバロメーター。山口は2019年全国中学生選手権5位があるだけで、目立つことはなかった。
全国少年少女選手権でも、2位はあるが優勝経験はない。いわば完全な“穴馬”。1年生王者誕生を予想した関係者は皆無だったのではないか。だが、小学校卒業とともに故郷(三重県)を離れ、強豪チームの中でじっくりと鍛えた実力は本物だった。
高校生の大会としては、まだ国体を残すが、12月の天皇杯全日本選手権が楽しみ。6月の明治杯全日本選抜選手権では、優勝した青柳善の輔(山梨学院大)にこそ4-8で敗れたものの、大学生2選手を破って3位に入賞した。
「(シニアの選手は)力が強く、技術もすごい」と言いつつも、「日本一は、もう手の届くところにあると思います。勝てる、と意識して闘えば…。次は絶対」ときっぱり。
同期の金澤孝羽(男子グレコローマン55kg級)が昨年12月の全日本選手権を制し、坂本輪(男子フリースタイル61kg級)が全日本選抜選手権で勝ち、シニアでの闘いは「先を越された」という思いがあるようだ。「今年の天皇杯(全日本選手権)では、必ず優勝します」と気を引き締めた。
“超高校級”の選手とともに、残り半年間でどこまで鍛えられるか。インターハイ3連覇の“先輩”乙黒拓斗と同じ道を目指す!