※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
2年前、全国高校選抜大会とともに春夏連覇を達成した鳥栖工(佐賀)が、2023年インターハイ学校対抗戦を制した。昨年は春が初戦(2回戦)敗退の屈辱で、インターハイは3位。日体大柏(千葉)に1-6で敗れ、王者とは距離を離された結果だった。
そんな低迷を乗り越えての栄冠。小柴健二監督は決勝のあと、体育館の通路で選手の激闘をねぎらい、そのあと、遠巻きに見ていた保護者に、嶋江翔也コーチとともに「ありがとうございました」と深々と頭を下げた。
2年前の春夏制覇のときは、ともに無観客の大会。ネットを通じて応援してくれた人たちに練習の成果を伝えることはできても、熱狂的な声援を受けることもなければ、その場で直接お礼を言うこともできなかった。
今大会は違った。観客席からは、常に選手を鼓舞する声が続き、優勝を決めたあとは、マット上に並んで応援団席に一礼。感謝の気持ちを伝えた。小柴監督は「九州から大勢の人が応援に来てくれました。苦しい時でも応援してくれた人たちに感謝したい。春夏制覇のときより一味も二味も違う優勝です」と、応援の力を強調した。
春夏連覇を達成しても、選手は入れ替わるので、翌年も勝てる保証はどこにもない。事実、新チームでの全国大会初戦となった昨年の全国高校選抜大会は、アクシデントで主力選手を欠いたとはいえ、初戦敗退の屈辱。チームを強化しつつ続く選手も育てるのは簡単ではない。
だからこそ、苦しい時期を支えてくれた人たちへの感謝の気持が強い。来年10月に国民スポーツ大会(来年、「国体」から改称)開催を控える佐賀県がスポーツ振興に力を入れることになり、素晴らしい設備がつくられた(関連記事)。県は佐賀スポ大会以降も支援も続けることを決め、これは大きなエネルギー。優勝の喜びを届ける人が多くいるのが、強さの原動力だろう。
準決勝の自由ヶ丘学園(東京)戦、決勝の埼玉栄(埼玉)戦と、いずれもチームスコアは4-3だった。だが、鳥栖工には「負けるかも」という雰囲気はまったくなかった。125kg級に甫木元起が控えているからだ。個人戦は92kg級で、昨年の春夏の王者。チームが苦しいときでも、ひときわ輝く成績を残した。
今年の全国高校選抜大会でも、全試合を第1ピリオド、無失点での勝利。4月のJOC杯ジュニアオリンピックでは、中学二冠王者で期待の新人、リボウィッツ和青(東京・自由ヶ丘学園)相手に失点(2点×2)してしまったが、そのときより体つきが一回り大きくなったというのが周囲の見方。事実、今回のリボウィッツとの対戦は、1分11秒、11-0での勝利。4月の“苦戦”をはね返すだけの結果を見せた。
小柴監督も「(甫木は)負ける要素はないですね。4月より成長している」と見ており、どの試合も、「3勝した段階で、甫木が締めてくれて勝てると思いました」と言う。
もちろん、125kg級までに「3勝」しなければ、甫木の強さも意味をなさない。甫木へつなげる貴重な働きをしてくれたのが、51kg級の宮原拓海と怡土悠馬、55kg級の河野兼多朗の軽量級の選手。5試合すべてで最初の2階級が勝ってくれたのだから、かなり安心して見ていられた。
怡土は全国レベルでの優勝の経験はなく、九州3位の選手だが、飛龍(静岡)戦では昨年の中学二冠王者の本多正虎(東海王者)を、自由ヶ丘学園戦ではJOCジュニアオリンピックカップU17優勝の坂本広(関東王者)を、それぞれ破る殊勲。同監督は「実績ある選手を相手に、ともに接戦で、逆転で勝ってくれたことが、優勝につながる要因だったと思います」と、粘り勝ちによる貴重な白星だったと振り返り、感謝した。
インターハイ前の7月25日には、同校の野球部が1年生投手の健闘もあって春夏を通じて初の甲子園出場を決めた。「頑張っていますね。力をもらいました」と話した小柴監督。だが、全国王者の“先輩”として、レスリング部の活躍こそが他の部にエネルギーを与え、同校の勢いを押し上げているのではないか。
来年の佐賀スポ大会へ向けて、さらなる期待ができる鳥栖工の活躍だ。