※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=保高幸子)
米満達弘
昨年の世界選手権(ロシア)では1回戦負け。体の軟らかいキューバ選手に戸惑い、終盤に逆転負けし、悔しい思いをした。しかし「アジア大会をメーンに考えていた」という米満は、「狙った大会で1位を取れたことで、世界の1位も見えてきました」と前向きにとらえている。
■けがもプラス材料に変えて実力アップ
総合大会で金メダルを獲ったことで気持ちにも変化があった。「海外でも1位を取れると自信がつきましたね。メダルを取れるとは思っていましたが、優勝は難しいと思っていたんです」。それまでは、決勝に進んでも場の空気に飲み込まれたりしていた。そんなことは、もう遠い昔の話。アジア大会直後に行われた全日本選手権では、アジア大会組が疲れや調整不足などから続々と敗退する中、米満はしっかり勝ってアジア王者の実力を見せた。
米満の弱点と言えばけがが多いこと。ここ数年、肩、左足首、右ひじと、かなりの故障を抱え、マット練習ができない時期も長かった。一番最近では7月末の菅平合宿で右ひじ靭帯を損傷。今も右腕には痛々しいほどのテーピングがしてある。しかし「右手が使えない分、左手だけで練習していたので、前よりも左手がうまくなったんですよ」と明るく言う。(左写真:右腕にテーピングの米満=左端)
全治1ヶ月と言われていた故障は、少し長びいてはいるが、“けが”の功名(注:この言葉の「けが」は、「怪我(けが)」ではない)で、けがと仲良くする術を知っている。「今まで左手はあまり意識して使ってなかったんですけど、今回のことで左手でも自分のリズムとれるというか、崩せるようになったんです」と新たな“武器”を手にした。完治とはいかなかったが、2009年に銅メダルを獲得した時はもっとひどいけがをしていた。それに米満の得意技はタックル。「ひじはタックルには影響ないです」と不安はない。
■気分や調子が悪くても勝てる選手へ
金メダルの期待が高まっている。「自分でもベストの状態でかみ合えば金メダル取れると思っています。調子のいい日、悪い日というのがどうしてもありますが、今回は気分や調子が悪くても勝ちにいく、というのが目標です。そういう選手になろうと思います」と力強く答える米満の今の一番のモチベーションは、「今までお世話になった人たちへの恩返し」だ。「大きなけがをしているとき、辛抱強く見守ってくれた人たちや、打ち込みにつき合ってくれた井上謙二コーチ(自衛隊)にできる恩返しは、金メダルを取ることだと思います」と燃えている。
米満の注目すべき点は、その実績のみならず、進化し続けるところだ。「そうですね、進化する努力はしています」。その進化は、けがでマットを離れているときに取り組んだ体幹トレーニングや、右腕のけがをしたら左腕でレスリングできるように切り替える心がけから来ている。ただやるだけではなく、「意識して」やってきたからだ。
「レスリングを変えるわけではないですけど、特定の筋肉がないとできない技もあります。体幹が必要な技もあります。それで進化しているんですかね」。勝つために必要な物を、敵である「けが」から得てきた。米満は全てを味方にした。
アジア大会では決勝後にマット上で日の丸を持ち、2度もマットを走り回った(右写真)。「(総合大会の)国際大会で1位になったことがなくて、どうすればいいか分からなかったんですよ」と言って関係者や報道陣の笑いを誘った。今年、優勝した米満がどんな行動をとるのか、その姿を想像してしまう魅力ある選手だ。
「粘り強さ、負けず嫌いでは世界の誰にも負けません」という米満の進化し続けるレスリングが、世界の頂点を獲る-。
米満達弘(よねみつ・たつひろ=自衛隊)
1986年8月5日、山梨県生まれ、24歳。山梨・韮崎工高~拓大卒。高校時代は、フリースタイルではインターハイ2位が最高。拓大2年の06年に世界ジュニア選手権に出場。08年は世界学生選手権で優勝したあと、学生二冠(全日本学生選手権、全日本大学選手権)を制覇。全日本選手権で初優勝した。09年アジア選手権で2位のあと、世界選手権で銅メダルを獲得。けがの治療で約半年、マットを離れたが、10年の全日本選抜選手権で優勝。プレーオフに勝って世界選手権に出場。アジア大会で優勝。168cm。
◎米満達弘の主な国際大会成績
《2011年》
【1月:ヤリギン国際大会(ロシア)】=2位(30選手出場)
決 勝 ●[0-2(1-3 0-1)]Adam Batirov(ロシア)
準決勝 ○[2-0(1-0,2-1)]Magomedmurad Gadzhiev(ロシア)
3回戦 ○[2-0(1-0,1-0)]Brent Metcalf(米国)
2回戦 ○[2-0(4-0,7-3)]Azamat Omurzhanov(カザフスタン)
1回戦 ○[2-0(3-0,3-0)]Felix Urduhanov(ロシア)
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《2010年》
【11月:アジア大会(中国)】=優勝(16選手出場)
決 勝 ○[2-0(1-0,2-0)]Mehdi Taghavi(イラン)
準決勝 ○[2-1(0-1,3-0,2-0)]Yang chun song(北朝鮮)
2回戦 ○[2-0(3-0,3-0)]Pradeep Kumar(インド)
1回戦 ○[2-0(2-1,1-0)]Azat Donbaev(キルギス)
【9月:世界選手権(ロシア)】=23位(35選手出場)
2回戦 ●[0-2(0-1,1-2)]Geandry Garzon Caballero(キューバ)
1回戦 BYE
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《2009年》
【9月:世界選手権(デンマーク)】=3位(34選手出場)
3決戦 ○[2-0(1-0,4-0)]Sushi Kumar(インド)
敗復戦 ○[2-0(3-0,2-0)]Jung Young-Ho(鄭栄鎬=韓国)
4回戦 ●[0-2(0-1=2:04,1-3)]Rasul Djukaev(ロシア)
3回戦 ○[2-0(1-0,2-0)]Gergo Woller(ハンガリー)
2回戦 ○[2-0(2-0,2-0)]Zhirair Hovhannisyan(アルメニア)
1回戦 BYE
【5月:アジア選手権(タイ)】=2位(18選手出場)
決 勝 ●[0-2(1-1,0-3)]Mehdi Taghavi Kermani(イラン)
準決勝 ○[2-1(1-2,3-1,6-0)]Kim Dai-sung(韓国)
3回戦 ○[2-0(2-0,2-0)]Bator Bazarov(キルギス)
2回戦 ○[2-0(5-1,6-0)]Jilibu Hei(中国)
1回戦 BYE
【2月:ダン・コロフ国際大会(ブルガリア)】=9位(23選手出場)
2回戦 ●[0-2(0-1=0:08,1-1)]Muhammed Ilkan(トルコ)
1回戦 ○[2-0(1-0,TF6-0=0:31)]Nikolay Kurtev(ブルガリア)
【2月:ヤシャ・ドク国際大会(トルコ)】=優勝(30選手出場)
決 勝 ○[2-0(1-0、TF6-0)]Okay Koksal(トルコ)
準決勝 ○[2-0(3-1,4-2)]Unurbatov(モンゴル)
3回戦 ○[2-0(1-0,1-0)]Haisian Garcia(カナダ)
2回戦 ○[2-0(2-0,4-0)]Ishan Capas(トルコ)
1回戦 ○[2-0(3-0,4-2)]Yusuf Beneku(トルコ)