※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
昨夏、インターハイが開催された高知市。地元のインターハイで結果は出せなかったが、小玉龍舞(高知・高岡高)がJOCジュニアオリンピック・U17グレコローマン92kg級で優勝。“予定”より約8ヶ月遅れて栄光をつかんだ。
初戦(2回戦)と準決勝を、ともに1分もかからないテクニカルフォールで勝ったあとの決勝は、22秒でフォール勝ち。3試合で合計104秒という圧勝優勝に、「とてもうれしいです」と喜びの言葉が出てきたが、「最後は自分の技で倒しかった。相手の投げ技の失敗を押さえ込んだけですので…」と、あっけない幕切れに不完全燃焼という気持ちもあるようだ。
理想の勝ち方は、「攻撃して、グラウンドでポイントを取って」という闘いで、初戦と準決勝は「納得できる」とのこと。だが、相手のミスを誘うのも、そのミスを逃さないのも、ともに強さである。小玉の前へ出る圧力が強かったことが相手の投げ技の失敗を誘発したわけで、全体としては自分の力をきちんと出せた優勝と言えるだろう。
全国レベルの大会での優勝は、小学校5年生のときの2017年全国少年少女選手権以来。中学時代はまったく実績がない。1年生のときは全国2大会(全国中学生選手権、全国中学選抜大会)に出場したものの上位には行けず、その後は新型コロナウィルスによる学校の活動制限もあり、レスリングから離れた。
「一時期、家に引きこもっていました」。しかし、高校に進むにあたり、「やはりレスリングをしたい」という気持ちが芽生えてきた。姉・彩天奈(早大~現MTX)が世界ジュニア(現U20)選手権を制するなど全日本トップ選手として活躍していたことも、気持ちが上向いた要因。「背中を追いかけたところはありますね」と言う。
高校は、極東クラブの練習場として幼稚園のときから親しんできた高知東高校か、高知県レスリングの発展を支えた父・小玉康二さん(関連記事)が異動した高岡高校か迷った末、当時は発足直後の同好会だったが父が指導する高校を選んだ。マットで練習し、「レスリングが自分の進むべき道なんだな、と思いました」。
とはいえ、約2年間のブランクを埋めるのは大変で、1年生で迎えた昨年の地元インターハイはベスト8。「キャリアも実力も足りませんでした」と振り返る。ブランク明けの1年生でも、テクニカルフォールの2勝であれば御の字とも思えるが、「やはり地元でのインターハイなので、3位入賞はしたかったです」と負けん気は十分。
今年3月の全国高校選抜大会も、負けたのは昨年の高校三冠王者・甫木元起(佐賀・鳥栖工高)なので、勝つのは厳しい相手だが40秒くらいで負けたのが悔しくて…。その悔しさを、この大会にぶつけました」と言う。
父は「体を鍛えるのが好きで、中学のとき、試合はなくともトレーニングはやっていました」と説明する。昨年夏からグレコローマンをやらせたところ、「こちらの方が向いている感じがします」とのこと。全国高校選抜大会の前から、この大会に照準を合わせてグレコローマンの強化を中心にやってきたと言う。
高校3年生があまりいない大会なので(早生まれの選手は出場可)、「もしかしたら」という気持ちがあったそうだ。優勝はうれしいが、「3年生も出場する全グレ(8月の全国高校グレコローマン選手権)で勝ってこそ本物。リボウィッツ選手(和青=東京・自由ヶ丘学園、昨年の中学二冠王者)のようなすごい選手も出て来て、下からも追い上げらます」と、さらなる努力が必要と気を引き締める。体重がまだ92kgにいっていないので、「まずパワーアップです。世界に出ることになれば、なおさらです」と言う。
同好会から部に昇格したとはいえ、高岡高の昨年度の部員数は5人と発展途上のチーム。だが、高知県自体が、世界チャンピオン(櫻井つぐみ=現育英大)やU20世界王者(西内悠人=現日体大)ら世界トップの選手の誕生により、レスリング熱が高まっている。
高岡高でも、土佐塾高の小田貴久監督(専大卒=今年1月の全日本マスターズ選手権優勝)や、高知東高OBの恒石昌輝さん(専大卒=2019年国体出場)といった人たちが練習相手をしてくれる。「練習環境は悪くないです」と話し、わが子の優勝を機にチームの今後の発展を目指す。
この大会のU20とU17で兄弟W優勝した藤田龍星(日大)・宝星(埼玉・花咲徳栄)の父・藤田征宏さん(関連記事)は、国士舘大時代の1年後輩。同期生や先輩後輩の息子や娘が頑張っているので、「刺激になります」と言う。高知県に新星が誕生するか。