2012.09.26

【特集】“後輩”大島優子さん(AKB48)らに刺激受け、飛躍を誓う…女子63kg級・工藤佳代子(自衛隊)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=増渕由気子)

 伊調馨(ALSOK)が史上初の五輪3連覇を達成した女子63kg級。五輪の興奮冷めやらぬうちに行われる世界女子選手権(9月27~29日、カナダ・ストラスコーナカウンティー)には、6月の全日本選抜選手権で悲願の初優勝を遂げた工藤佳代子(自衛隊=右写真)が派遣される。

 栃木県出身で、地元の壬生高を卒業し、集合教育を経てレスリングのプロ集団である自衛隊体育学校の門をたたいた。今年は入校して6年目。機が熟した工藤が、ついに世界へはばたく。チームの出発となった23日には、成田空港で「いろいろな方の力があっての(出発の)今日の日だと思う」と目を輝かせた。

■五輪階級にこだわってつかんだ代表

 北京五輪からロンドン五輪へ向けての女子63kg級争いは、絶対女王の伊調馨、2009・10年世界女王の西牧未央、元世界V4の山本聖子の“3強の争い”という状況だった。そのため、若手選手は59kg級や67kg級に流れたりもしたが、工藤は五輪階級で挑戦を続けてきた。自衛隊の笹山秀雄コーチは「身長167cm、普段の体重は70kgくらいになるほど」と話し、その体格に合った階級だからだ。

今年6月、渡利にリベンジして世界選手権に出場する工藤

 “3強”による勢力図も、昨年6月の全日本選抜選手権で渡利璃穏(至学館大)が山本を破るなど刻々と変化。2016年リオデジャネイロ五輪を見据えた今年の全日本選抜選手権に、3選手は出場しなかった(山本は59kg級に出場)。このチャンスを、社会人6年目の工藤がしっかりとつかんだ。

 全日本レベルの大会では3位が定位置だったが、準決勝を勝ち抜いて決勝に進むと、昨年12月の全日本選手権2位の渡利を2-0で下して悲願の初優勝。世界選手権代表をぐっと近づけた。

 だが、優勝者イコール世界選手権代表決定ではなく、安心はできなかった。工藤は昨年の全日本選手権準決勝で渡利に0-2で敗れており、世界選手権の“選考レース”では1勝1敗ということになる。渡利は、高校時代からの次世代のホープとして注目を浴び、昨年のゴールデンGP決勝大会で優勝するなど、国際舞台でも実績を残した選手だ。

 工藤も「渡利選手は実力がある選手なのでどうかな、と思っていた」と100パーセントの自信がなかったという。その分、代表に選ばれた時は活躍を誓った。「(かなりの)減量があるので、計量後、しっかりと食べてタックルを中心としたレスリングをしたいです。現時点で馨さんを超す実力はないけれど、出るからには金メダルを獲りたい」―。

■自衛隊と地元の追い風も「あやかりたい!」

 工藤の先輩である小原日登美と米満達弘がロンドン五輪で金メダルを獲得した。同じチームで練習している選手の金メダルを見て、「今までの五輪より身近に感じたし、いい影響を受けました。おかげでいい練習が積めた」と金メダルの余波を感じているという。

全日本合宿では、五輪V3の伊調(右)が親身になって指導してくれる

 他にも工藤を勇気づける出来事が続いている。そのキーワードは工藤の地元、「栃木県」だ。国民的アイドルグループ「AKB48」でセンターを務める大島優子さんは、壬生高の出身で、工藤の一つ下の後輩。当時から芸能活動と学校を両立する彼女は有名人だったという。

 高校時代に生徒会長を務めていた工藤もある意味“有名人”。「知り合い程度ですが…」と面識がある。「同じ学校出身の人があのようなアイドルグループの中心で活躍しているのはうれしい。自分も頑張ろうと思う」と“後輩の活躍”に刺激を受けている。

 大島さんがAKB総選挙で見事1位に返り咲きを果たしたのは6月の上旬。7月下旬から始まったロンドン五輪では、栃木県から同五輪の競泳で唯一の現役高校生として出場した萩野公介選手がメダリスト第1号になった。8月には、「高校時代からスーパースターだった」(工藤)という斎川哲克(両毛ヤクルト販売)が栃木県勢として28年ぶりの五輪のマットを踏んだ。

 「今いろいろな運がある。このパワーにあやかりたい」と工藤。6月から毎月のように地元に明るいニュースが生まれた。9月はいよいよ工藤の番だ。「栃木県にはレスリングで活躍した選手(金子正明=1968年メキシコ五輪優勝ほか世界選手権V2、船越光子=1994年世界選手権優勝、長島偉之=1984年ロサンゼルス五輪銀)がたくさんいる。最近(世界一が)出ていないので、私が金メダルを持ち帰りたい」ときっぱり。

 笹山コーチも「がむしゃらなレスリングをすれば勝機は十分にある」と太鼓判を押す。18年ぶりの栃木県出身の世界チャンピオン誕生なるか―。