2023.01.18

【特集】都心に戻ってきたダウン症の人のための「ワクワクレスリング教室」、太田拓弥・中大コーチのロマンが再スタート!(前編)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

 

 新型コロナウィルス蔓延の影響もあって途絶えていたダウン症のある人対象の「ワクワクレスリング教室」が都心に戻って来た。1月14日、東京ドームや後楽園遊園地の最寄り駅の中央線「水道橋」のそばにある格闘技ジム「アカデミア・アーザ」で同教室の練習が行われ、2005年の発足当初から通っている選手も参加して、中大・太田拓弥コーチ(1996年アトランタ・オリンピック銅メダリスト)のもとで汗を流した。

 ダウン症とは、先天性疾患の一種で、知的・身体的発達・成長に遅延などが伴う症状。適切な医療と療育および教育によって、社会人として立派に働いている人も少なくないが、偏見は消えていないのが現状だ。

▲都心に戻って来た「わくわくレスリング教室」

 そんなダウン症のある人を、レスリングによって鍛え、生きる希望を持ってもらおうと立ち上がったのが、太田コーチ。ダウン症のあるわが子を描いた手記「たったひとつのたからもの」(著・加藤浩美=2004年に松田聖子主演でドラマ化DVD)を読んで感動し、世間で肩身の狭い思いをしている子にレスリングを教えれば、前向きに生きてもらえるのではないか、という思いで2005年に立ち上げた。

コロナで活動停止となったが、「練習をやりたい」という声が挙がる

 神奈川・大楠ジュニアクラブや京都・八幡ジュニア教室などが賛同。大会を開催するまでに成長した。早大コーチ・監督の任期を終わった頃にコロナが蔓延し、活動停止を余儀なくされたが、しばらくすると「練習をやりたい」という声が寄せられたというから、ダウン症のある人にとってレスリングは大きな存在だったのだろう。

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「ダウン症のある人から生きるパワーをもらっています」…太田拓弥コーチ

 リモートによる指導でつないだあと、活動制限が緩和されるにつれ、実際にやりたい、となるのは当然の流れ。2021年11月に板橋区のキッズ教室「グロリア」(伊東克佳代表)の厚意で練習を再開した。ダウン症のある人は小さな頃に大病を患ったケースも多く、コロナ感染のリスクや、かかったときの重症化率が高いようで、無理強いはできなかったが、「始めたときのように、少人数でもいいから」と再出発した。

 中大コーチに就任したことで、中大のある八王子でも昨年11月から開始したが、やはり都心での練習場がほしかった。そんな状況のときに、アカデミア・アーザ(吉澤昌代表)が練習場所を提供してくれることになり、14日に初練習を行った。

 太田コーチは「(ダウン症のある人に勇気を与えることが)生活の一部になっています。この子たちから生きるパワーをもらっているんです」と、都心でのクラブ再開がうれしそう。この日、練習に参加したのは5人だが、体を動かす中に笑い声もあり、スパーリングに自ら手を上げて参加する選手もいて、前向きな気持ちがあふれているシーンが数多く見られた。

▲太田コーチと保護者のあたたかいまなざしを受けてスパーリングに汗を流す選手

 「みんな、レスリングが好きになってくれています。その気持ちを何とかしてあげたいんです」。練習の成果を試す場として大会があり、選手へのモチベーションになるのはダウン症のある人でも同じ。以前は、スポンサーもついて「ワセダカップ」などの大会や交流戦も開催されたが、コロナ禍によって、他クラブの活動も停滞し、現在は交流戦もできない状態。まず多くのクラブで活動を再開してもらうことが先決だ。

 「岐阜県高山市で京都の八幡ジュニアと交流戦をやったことがあります。今年は(太田コーチの出身の)和歌山で何らかの交流戦をやりたいと思っています。きっかけがないと、なかなか再開できないものですから」と話し、交流戦の実現によって他クラブの活動再開を目指す腹積もりだ。

《後編へ続く》

▲太田拓弥コーチに挑む選手

▲技を指導する太田コーチ