2012.09.22

【特集】日本初の“兄妹出場”を世界一で飾れるか…女子72kg級・鈴木博恵(クリナップ)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文・撮影=保高幸子)

 世界女子選手権(9月27~29日、カナダ・ストラスコ-ナカウンティー)の72kg級は、今年6月の全日本選抜選手権で優勝した鈴木博恵(クリナップ=右写真)が初めての出場を決めた。「金メダルが目標です。今まで自分からは攻めていかなかったけれど、チャレンジャーの気持ちで攻めていきたい」と、初の大舞台に燃えている。

■2011年世界2位の選手を破る実力!

 これまで浜口京子(ジャパンビバレッジ)と何度も対戦し、2010年の国内主要2大会では、ともに1ピリオドを奪取。第3ピリオドも大接戦を展開して確実に力を上げてきていた。2011年には1月のヤリギン国際大会(ロシア)で、上位入賞はならなかったが、その年に世界2位となったエカテリーナ・ブキナ(ロシア)に土をつけた。

 同年7月のゴールデンGP決勝大会(アゼルバイジャン)では銅メダルを獲得し、世界V5のスタンカ・スラテバ(ブルガリア)、今夏のロンドン五輪で金メダルを取ることになるナタリア・ボロビエバ(ロシア)とともに表彰台に上がった。

2011年7月のゴールデンGP決勝大会、鈴木(青)が押さえているのはロンドン五輪で金メダルに輝くことになるボロビエバ

 10月にはサンキスト・オープン(米国)で2005年世界チャンピオンのアイリス・スミス(米国)を破るなどして優勝。世界の72kg級の舞台で闘う自信をつけた。

 勢いに乗った同年12月の全日本選手権では、新海真美(アイシン・エィ・ダブリュ)に準決勝で敗れ3位。浜口のが城に挑むことなく終わってしまったが、全日本選抜選手権はその新海にリベンジを果たしての初優勝。世界選手権代表の座を勝ち取った。

 優勝後、「浜口京子さんという偉大なチャンピオンがいた階級なので、オリンピックが終わったら、自分が後を継いでいけるような存在になりたいです」と話した。ボロビエバズラテバと肩を並べて表彰台に上がり、世界チャンピオン経験者のスミスを破った事実は、その力があることを示している。

■兄の無念を受けてマットへ

 鈴木の兄・崇之さん(警視庁)は、ロンドン五輪の道が断たれて今年引退したが、2008年北京五輪の出場枠がかかった2007年世界選手権に出場したことがある(9位)。今回の鈴木の出場により、日本で初めての”兄妹”出場となる。引退に際し兄・崇之からは「おまえは(リオ五輪に向けて)頑張れ」と声をかけられたという。これから4年後のリオ五輪に向け、まずはこの世界選手権で力を証明したい。

全日本合宿で木名瀬重夫コーチの指導を受ける鈴木

 今大会の他国からの出場選手は、一度勝っているブキナ(ロシア)やスミス(米国)らが判明している。強豪ではあるが、一度勝ったことへの精神的優位さがあるはずで、鈴木にチャンスは大きい。栄和人強化委員長(至学館大教)も「浜口と比べて体格や力では劣るが、鈴木の方がうまさがある」と期待している。

 この合宿では、相手を崩してからタックルに入るまでに一瞬間を置いてしまうくせを直すことが課題。外国人選手に力では勝てないが、タイミングの良いタックルで鈴木のよさを出したいところだ。

 所属のクリナップは福島県にあり、2011年の震災では近隣に大きな被害があった。今大会はクリナップから67kg級の井上佳子とともに2選手が出場する。会社からのサポートも大きく、県内からの期待も高い。

 初戦から自分の力を出していけば、世界一は必ず成し遂げられるはず。強い気持ちで日本女子72kg級に鈴木がいることを示したい。