※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=樋口郁夫)
世界選手権10度目の出場となる吉田沙保里(ALSOK)は別格として、今回の世界女子選手権(9月27~29日、ストラスコーナカウンティ)で、吉田に続く世界選手権出場の経験を持つのが67kg級の井上佳子(クリナップ=右写真)。というより、世界選手権に出場したことがあるのは、吉田と井上の2人だけだ。
井上は2007・09年の5位を経て、昨年の世界選手権で銅メダルを獲得。順調に力を伸ばしてきた。銅メダルの次は銀メダル、とは思っていまい。目標は金メダル。世界選手権に出場経験があるからチームを引っ張ろうといった「余裕はない」というが、「大会の初日にあるので、勝って次につなげたいです」と、チームの勝利につなげるためにも必勝を期している。
■国内で突き上げられたことが世界銅メダルにつながった
「やるしかない、という気持ちです。オリンピックで先輩方がいい成績を残してくれましたので、それに続けるように頑張りたい」。テレビで観戦だったが、オリンピックを見て感じたことは、強い選手はリードされていてもあきらめることなく攻め、逆転する強さがあること。「最後は気持ちなんですね」と話し、優勝を引きよせるのは技術もさることながら、粘りであり、精神力だという気持ちを強くしている。
昨年の世界選手権は、準決勝でオユンスレン・バンジャラグズ(モンゴル)に敗れての銅メダルだった。その選手には、今年1月のモンゴル・オープンの決勝でリベンジすることができた。ひとつの壁を破ったことになるが、「闘う相手はその選手だけじゃない。気を引き締めてやっていきたい」と、だれが相手でも油断することなく闘う気持ちだ。
今年6月、国内のライバルを撃破して世界選手権キップを獲得
昨年のゴールデンGP決勝大会を16歳で制した土性沙羅(愛知・至学館高)の存在で、実は昨年の世界選手権の予選として行われた全日本選抜選手権では苦杯を喫している。過去の実績と大会時にけがをしていたことが考慮されて世界選手権のキップを手にし、銅メダルにつなげることができた。その“救済”がなければ、大きなつまずきに遭遇していた。自信を持った今の自分はいないことになる。
だが、下から突き上げられることは選手の実力アップに欠かせない要素。「年下の選手に負けられないという気持ちがありましたね」と振り返り、その屈辱があったからこそ世界のメダリストの地位を獲得することができた。今年6月の全日本選抜選手権では土性にリベンジ。つまずきをエネルギーに変えたわけで、その経験はここまでの1年間のみならず、今後の実力アップにも役立つことだろう。
■なるか、日本悲願の金メダル
全日本合宿で練習する井上佳子
「出てくる選手はみんな強い選手ばかりです。気を抜かず、ここで勝って、次につなげたい」と、次のステップにつなげるためにも優勝を目指す。
日本が15年にわたって世界一に輝くことのできない階級(階級区分変更前の68kg級時代を含む)。ロンドン五輪で金メダル3個獲得と、ワンランクアップを達成した日本女子レスリングは、こちらの壁も破ることができるか。